「ここはアズバインバカラ……なんですか?」
なんとか落ち着きを取り戻して貰って、俺はここがアズバインバカラだと説明した。その話をする前までは、どこかポーとしてた彼女だけど、今は流石にショックを隠し切れてない。ベッドにもどした彼女はシーツを強く握ってる。
「大丈夫かい?」
「はっ! 私、こんな高そうな布になんて事……」
そういって彼女は自分が皺をつけてしまったシーツを一生懸命伸ばそうとして。気になる所、そこなんだ……まあだけど、突っ込むなんて事はしない。
「えーと……」
「私は『ウェイファエア』です。勇者様」
「えっ、ウェイファ……」
「ウェイファエアです。フェアと呼んでくださって結構です」
「じゃあフェア。体が大丈夫なのであれば、このアズバインバカラの領主にあって欲しい。そしてズンジャイサンバがどんな状況なのか、話して欲しいんだ」
かなり言いにくい名前に苦戦したが、どうやらフェアって事でいいらしい。そして彼女に聞きたいのはそれこそズンジャイサンバの現状だ。ジゼロワン殿に聞いたが、やっぱり現地の人に言って貰うのが一番だろう。それにジゼロワン殿に聞いたのは印象でしかない。映像も見たが、俺達はそれを見て酷いと思うだけだ。何が起きてたのかは、推測するしかない。けど彼女、フェアは違う。フェアはズンジャイサンバで何が起きたのか、それを体験してる証人だ。だから彼女の口から話してくれるのがいい。
「ズンジャイサンバ……あそこは……うう……」
行き成りボロボロと涙が零れ出す。そして体もものすごく震えてる。
「あ……あ……そこは……私……」
「ごめん。大丈夫、今は思い出す必要は無いよ」
俺は彼女に近付いて、彼女の体を包み込んだ。震えてた彼女の体が次第に落ち着きを取り戻していく。そしてその腕が俺の体に回されて、ぎゅーとされる。ヤバいな……なんかこんなの見られたらなんか誤解されそうな光景……そう思ってると、やっぱり丁度のタイミングで誰かが来るんだよね。なんだ? 世界が監視してるのか? 来たのはどうやら、お世話係に任命されたメイドさんだ。彼女はこの光景を見ると、ガシャンと、持ってきた水と水差しを落とした。
「ちがっ、これは……」
変な噂を流して欲しくなくて、俺はそんな言葉を絞り出す。けどそのメイドは落とした物を捨て置いて、何故かにやにやしながらこっちに近付いてきた。そしてこれまたとても丁寧な、お手本の様なお辞儀を背中側からされた。
「失礼します」
「えっと……何やってるの?」
「むぎゅーです」
なぜだか、メイドさんは俺の背中から俺を抱きしめてきた。そしてとても満足そうにしてる。どういう事だよこれ。