「ぐっ……」
「「「勇者様!!」」」
「「「勇者の旦那!!」」」
俺が壁にめり込んだことによって皆の中で動揺が走ってるのか声からわかる。でもそれもしょうがないことだ。なにせ、俺は彼らの前では常に余裕を崩さないできた。それが出来たんだ。それだけ、俺とこの世界の力には隔絶したものがあった。
「大丈夫……ちょっと油断しただけですよ」
俺はそう言って壁から這い出てくる。確かに攻撃を受けて、壁にめり込んでしまったが、ダメージはほぼ受けてはない。その証拠に俺にはほぼ、汚れはついてない。ただ……
「勇者様……その手……」
「ああ、でも大丈夫だから」
俺の腕……正確には左腕のあの銀色の存在の攻撃を受けた部分が赤く……というか、なんか変な感じになってる。まるで表面に銀色の絵具でもぶちまけたかのように……色がべちゃっとな……これはただの汚れじゃない。俺は自分の力で中和してるから問題ないが……これはかなりやっかいだぞ。
それこそこれはさっきの鋏と同じか……それ以上の呪いが内包してる。攻撃をしてガードされても呪いによって対象を殺せるのか……俺じゃなかったら攻撃をうけることさえアウトの攻撃だ。
「強がりはよくありませんよ。もう、貴方は終わりです勇者殿。さんざん私の邪魔をしてくれましたが、今のピローネには勝てません」
「それが、ピローネだと?」
はっきりとペニーニャイアンはそう言った。あれがピローネだと。確かに背丈はそのままだ。けど……見た目は完全に違う。それともあの砂獣の仮面をとれば、その下にはピローネの顔があるのか? もしかしたらあの仮面をとれば、ピローネの自我が戻るとか……
「うん……そうだよ」
なんと、自我がどうとか、もしかして正気に戻せばとか思ってたが、すでにピローネは正気らしい。
「すごいよこれ。どんどん力があふれてくるの。本当に……本当に凄い! これならたくさん遊べそう。ありがとうペーニャ」
「いいのですよ」
「待ちなさいピローネ! ペニーニャイアンはあなたを殺したのですよ!?」
ローワイヤさんがもっともなことを口にする。だってさっき殺されたんだよ? 復活できたからって、受け入れられるか? それにめっちゃ存在変わってるよ。姿形なんてなまやさしいものじゃない。ピローネは人ではなくなってる。
つまりは化け物だよ。それを本当に受け入れてるのか?
「うるさいよローワイヤ。羨ましいんでしょ? 私が自分を飛び越えてしまったから。うふふ、大丈夫。私が直接今度は殺してあげるね」
ピローネの奴は前の感覚のまま、所作を行ってるんだろう。目の前の化け物がかわいらしく上体を揺らしたりしてた。まあ大きさは幼女と一緒だし,一応二足歩行のかたちしてるから、そこまで不気味かと言われるとそうでもない。
でも動くたびにガチャガチャいってるし、やけに今のピローネは輝いてる。そのせいで、ただの子供だった少し前とは全然違う。それにおもむろに背中の羽を広げた。
一瞬にして、再びピローネが消える。でもちゃんと意識してたから、俺も動けた。ピローネの狙いはローワイヤさん。俺はローワイヤさんの認識外からその首を狙ってるピローネの腕よりも早く聖剣を振るった。