聖剣を引き抜くと、そこから血が……なんてことはなく、ただの虚空があった。むしろ向こう側がただ見えるだけ。
(なんなんだこいつ?)
そんなことを思いつつ、俺は更に切りつける。聖剣の特性か、こいつの体自体はこの世界の砂漠に生えてるサボテン並みによく切れる。
でもどうやらいくら切っても意味がなさそうでもあるんだよな。ダメージが通ってるように見えない。なにせこいつのエネルギー事態はかわってないからな。嫌な汗を催すプレッシャーは変化はない。最初の一撃はこの目玉も驚いてたようだが、今はそうじゃない。むしろ何も反応しないくらいだ。
ただ俺の行動をじっと見てる。腕の所についてる目玉はいつの間にか表側と裏側二つになってた。何もしてないように見えて、実はさっきから自身のエネルギーをたたきつけてきてはいるから、聖剣を振るうたびにそれもきってはいる。だが、こいつのエネルギーの総量もかなりの物のようだ。
もうちょっと踏み込みたいが……俺の足元にはこいつが狙ったペニーニャイアンがいる。まさか腕一本に目玉がついてる化け物ではないだろう。ならもう一本くらい同じような腕はあるはずだし、下手したら一本では済まないかもしれない。それにこいつがさっきからやってる自身のエネルギーによる目に見えない攻撃……これはなかなか厄介で、今のところ穴がここだけだから、すべてを防げてるが、俺が飛び出してこの穴をそのままにしてると、こっちを相手にしつつ、この化け物は残った人たちをその力の影響下に置くかもしれない。
(ここが絶妙な位置なんだよな)
つまりこれ以上しかけることが難しいということだ。でもそれはどうやら向こうも同じらしい。なんかかたくなにこれ以上壁を壊そうとはしないし……まあ最初にちょっと広げてたけど。でもこいつなら多分壁を壊すことくらいできるはずだ。そうした方か絶対に戦いやすい。なのにそれをしないってのは、何かしらの事情がある筈。
(もう一度吹き飛ばすか?)
聖剣の力を開放した一撃なら、一発で決められる可能性はある。でもこの化け物がなんで壁をぶっ壊さないのか気になるが……でもこのまま、悠長にやってたら、そのうちピローネが起きるかもしれないし、さらなる援軍が来ないとも限らない。そうなると厳しい。
いや、まだまだいけるが、どこにこの騒動を落ち着けるのかっていう問題が……ね。あまり大事になるとラパンさんにも迷惑をかけることになる。
そう思ってると何やら建物自体が揺れてるような……
「揺れてる?」
「今度はなんだ?」
皆も感じてる。そしてどんどんと建物の揺れは大きくなっていき。ぺキバキという崩壊の音も盛大になりだした。
「まさか!?」
俺は思い至った。その時にはすでに腕を引っこ抜いた化け物はこの建物から離れてるようだった。それと同時に、一気に浮遊感が襲い掛かってくる。
「落ちてるぞ!」
賞金稼ぎの一人がそんなことを言った。そうだ、あいつら、この建物の建ってた土地を切り離しやがったみたいだ。中央は不思議なことに、建物が上空に立ってる都市だ。だからこそ、一度その空にある土地から切り離されると……もちろん地上に向けて真っ逆さま。でも多分これって下にある建物相当巻き込むはず……
(いや、奴らが気にするはずないか)
それが権力者だ。奴らは俺の存在でペニーニャイアンの回収を諦めたんだろう。だから第二案を実行したというところだろう。だけど落とす程度で俺がやれるとでも思ってるのか? 取り合えず俺はペニーニャイアンとピローネを担いで、皆のもとへと戻った。