総力戦になった。飛び交う怒号と、断末魔の叫び。俺の視界に入る限りは危機を救ってやってるつもりだが……どんどんと俺たちはアズバインバカラの方へと押し込まれていってる。軍も賞金稼ぎの皆も決死の覚悟で砂獣と対峙してる。それは間違いない。
けど……厄介な奴が増えた。それは枯れ木のような砂獣。それに蛾のような砂獣だ。被害的にはでっかいサソリ型の砂獣が一番被害を出してると思うが、厄介さで言えば枯れ木のような砂獣の方が厄介だ。あいつのせいで軍と賞金稼ぎ達の攻撃が通らなくなった。血浄ではパワーアップ率が足りない。救いは枯れ木のような砂獣には攻撃力がほぼ無いことだ。
でも奴等も砂獣。タックルは出来るし、細長い体をしてるからって、その大きさは人を軽く超えてる。それが突っ込んできたら普通にダメージを食らう。それに奴等はとても頑丈だ。建物だってきっとその体当たりだけで壊せそうだ。そして蛾のような砂獣……こいつらは幻覚やらなんやら面倒な事をやってきてる。魔法で堕とすように攻撃してるが……アズバインバカラまでを覆うようにその鱗粉をはっしてるせいだろう、もう俺達全体が奴等の術中に入ってる。
新たな砂獣に、更にこれまで攻めてきてた奴等……それらが合わさってこっちはとても劣勢だ。
「ちっ」
輝きがなくなった聖剣では枯れ木のような砂獣を一撃で切り伏せるって事が出来ない。だから魔法主体に立ち回ってるが、今日日ここまで魔法を乱発してるのは初めてかもしれない。ノアのおかげでこの世界の力を返還してエネルギーに変えられるとは言っても、出ていく量の方が多かったらそのうち枯渇してしまう。でも……
(ここにはジゼロンワン殿もいる。出し惜しみはしない!)
救えるだけは救う。命さえあれば、後で一気に回復魔法をかけることだって出来る。だから負傷所はどんどんと無理矢理後方に吹き飛ばすとかしてるが……流石の俺もたった一人ではこの波のように押し寄せてくる砂獣を止めることが出来ない。どうやらだが……あの枯れ木のような砂獣は魔法にもそれなりに強い。流石にもう良いんでは? そろそろジゼロンワン殿に出て貰った方……と思ってると、側面から黒い光りが戦場を走った。そしてかなりの数の砂獣が一掃された。
「無様だな勇者」
「魔王! まだまだ居るぞ!」
魔王を見てテンションを上げるとか、俺もどうかしてるな。どうやら魔王やジャルバジャルの方に行ってた戦える奴等が来てくれたらしい。まあアズバインバカラが落ちたら次はどう考えてもジャルバジャルだ。防備はどう考えてもアズバインバカラが良いんだし、ここが耐えられなかったらジャルバジャルが耐えられるはずがないから、アズバインバカラを堕とさせないために、来てくれたんだろう。
いや――
「我の前にひれ伏せ雑魚共!!」
――うん、魔王の奴はただのストレス発散かもしれない。ただ暴れたいだけだなあれ。でも……助かる。