更にお風呂ではお湯を操ったりするのもやってた。お湯を力そのもので持ち上げるとかは簡単だ。でも……お湯そのものに力を通して自在に操る……とかはなかなかに難しくて、力の消費も激しいらしいと分かってた。でも諦めきれない野々野足軽は毎日お風呂ではお湯に力を浸透させてそのお湯を操る訓練をしてる。
「おにいまだー! 長いんだけど!」
そのせいだろう、よく妹の野々野小頭にせっつかれるようになってた。でも確実にその力は増している。どうしてこう別の物に力を流すのが難しいかもわかってきてた。おかげで効率もよくなってきてる気がしてた。
「おにいなんか色気づいてるの? きもいよ?」
「うっせ、そんなくだらない事じゃないんだよ!」
野々野足軽は小頭にそういって部屋へと戻る。その際にコップに水を入れて部屋までもっていった。そしてそのコップに入った水にさっきお風呂でやってたように力を流す。
これをただ力で包むようにして持ち上げるのは簡単だ。でもそれは彼の中では自由に水を操ってる事にはならないらしい。
「こんなのは水使いじゃない!」
といって試行錯誤を繰り返してる。
「何かに混ぜると、途端に自分の力が曖昧になるんだ……だからそれをもっと強く……強く力を意識する」
この力がなんなのか野々野足だってわかってない。でも確かに力はそこにあって、野々野足軽はそれを使って様々な事が出来るようになってる。でも終わりは見えないし、どこまで行けるかというワクワク感には抗えない。だからなんだってやるんだ――と野々野足軽は思ってる。
コップに入った水に力を浸透しきって、お風呂の時よりもよりはっきりと水を感じるようになったその時だった。
『−−−−ざ−−−−ズズ−−−−』
「なんだ?」
『−−−−ジジ−−−−ジ』
変なノイズが聞こえてきた。何がなんなのか全然わかんないが、ふと野々野足軽は口ずさんだ。
「水の声……だったりして」
流石にあり得ないか……とか一瞬思ったが、すでにあり得ないことが自分の体に起こったことでそんな「あり得ない」という感情を否定した。
「そうだ。あり得ないなんてことはあり得ない」
そう思って、野々野足軽はその声をもっと聞こうと集中するが、やっぱりノイズ混じりで何を言ってるのかわからない。そもそも言葉なのかどうかも怪しい。このノイズがなくなったとして、ちゃんと認識できるのか? とも思った。
「うーんわからん!」
そう言って野々野足軽は椅子を後方に傾けて体重をあずける。そんなギリギリの境を攻めてたせいだろうか? 行き過ぎて一瞬バランスを崩した。
「――おっ!? と!!」
椅子事後ろに倒れそうになった寸前に、なんとか耐えた。けどその時、机に膝をぶつけた。その衝撃でコップが揺れる。
「つっ!?――」
野々野足軽はただ反射的にそうしただけだっだ。手を伸ばしても、傾いた椅子の分届かない。間に合わない――だから力が伝わった。倒れたコップ。けど……なぜか水は零れてなかった。水は底に溜まったかのように、横に倒れた筈のコップの中で底に溜まってる。
実際はこのくらいなら力を使えば簡単にできる。でも今は水に力を浸透させてた。浸透させた力は曖昧で、ちょっと集中力を乱せば、野々野足軽はそのコントロールを離してしまってた。
けど今はそこまで集中してるわけでもないし、さっきの一瞬で確実に集中は切れた筈。なのに、水が底にとどまってるなんて、自分自身で野々野足軽は信じられない思いだった。
「なんで?」
そう思ってると、デロンと水が動いた。流れ出した訳じゃない。なんかまるで水が一つの塊のように転がったという方が正しい。そのままコップの外にでてきた。てか――と野々野足軽はおもった。
「力が勝手に動いてないか?」
確かに零さないようにと力を使った。けど、こんな動きをするようには使ってない。寧ろこれは水を外側から包んで動かしたかの様だ――と野々野足軽はおもった。
でもそれにしてはなかなかにプルプルしてるとも思ってた。外側を包んで動かすと、もっとカチンコチンになる。でもこの水はまとまってるのに崩れずに、まるでプリンやゼリーのように動いてる。明らかに外周を何かが覆ってるように形を崩さないのに、柔らかそう。
「どど、どうすれば?」
こんな事は初めてだったから野々野足軽はうろたえた。下手に力をどうにかすることもできない。というか、力を彼は干渉できなくなってるようだった。そう思ってると、机の端っこまできた水が一度ぺったんこになったと思ったら、野々野足軽に向かって飛んできた。思わずその水を野々野足軽は広げた両手でうけとめた。
『ありがとう』
「うわ!? え?」