(頭が痛い……ここは……どこだ?)
まるで水の中……そんな場所に野々野足軽はいた。でも水といっても、青く綺麗な世界ではない。暗い……そしてまるで粘々と体にまとわりつくようだった。そして見つめる上の方には光が漏れてる。
そこに手を伸ばすけど、どんどんと野々野足軽の体は沈んでいく。まるで逃さないというように……そんな風にその水は彼の体にまとわりついた。肺に満たさる重い感覚。そして口から洩れたそれが細かい泡となって消えていく。光が……どんどんと小さくなっていく。
「はぁはぁはぁ……」
ガバッと布団をまくって起き上がる野々野足軽――その瞬間だった。ドサドサドサ――と部屋にあるものが一斉に落ちたような……そんな音が響く。そして視線をさまよわせた野々野足軽が見たものは実際、その通りの光景だった。なんとも野々野足軽の部屋は足の踏み場もない……そんな感じになってたのだ。
野々野足軽はどっちかというと几帳面な性格である。なので部屋の中は基本的に整理整頓ができてる。マンガとかノートとかが開いたままだったり、ちょっと脱ぎっぱなしの靴下があったりもしてるが、それでも実際その程度……といえるものだった。
だから全体的に見たら、片付いてた方だ。けどそれが今や見る影もない感じになってる。
「ちょっ、ちょっと何の音!?」
そんな感じで慌てたように、野々野足軽の母が扉をあけてきた。どうやらさっきの音を聞いてやって来たらしい。野々野足軽は起きた直後とあって、そこまで大きく聞こえなかった音だが、どうやらそこそこ大きかったらしい。まあでもそれも納得できる。だって壁によってた棚とかひっくり返ってる。
この光景だけ見たら、震度6くらいの地震が来たのか? と思われても不思議じゃない。そんな惨状になってた。だからだろう、野々野足軽の部屋を見た母はびっくりした。
「な、なにがあったのよ? ここだけ地震でも来たわけ?」
そこらにあった散乱したものをちょこちょこと確保しつつ、母がそんなことをいってる。ここで野々野足軽はようやく「どうしようか?」と考え出した。
寝ぼけてたが、母がやってきて、いろいろとびっくりしてる光景に徐々に頭が覚醒してきたらしい。
(これって絶対に寝てる間に力が……やっちゃった感じだよな……)
とか考えてる野々野足軽。でもそれをそのまま母にいう訳にはいかない。けどだからってこの状況をどう説明すればいいのやらと頭を悩ます。
なにせ……だ。なにせこれはちょっとむしゃくしゃしてやった――というレベルを超えている。本当にこの部屋だけ地震が起きたようなのだ。もしもこれを野々野足軽が自分でやった……とか言ったら、心配されるだろう。心にどんな闇を抱えてるのか? と思われるに違いない。それはなんか嫌な野々野足軽だ。
じゃあ寝ぼけてしたことに? でもそれはそれで以下同文である。じゃあどうするのか?
(ここは力を使って、問題ないって思わせれば……)
そう思って野々野足軽は母をみる。力が……母に向かって伸びる。その時だ。
「大丈夫? 熱でもあるの?」
そういって母の手が野々野足軽の額に触れる。そしてその瞳には心配しかない。そこには母として子供を心配する気持ちしかないんだ。それを力を使って「改変」する。果たしてそれが許されていいのだろうか? と野々野足軽は思った。
(俺はなんてことを思ったんだ……)
そんな思いが野々野足軽の心に罪悪感として襲ってた。