「行っていいんですよ……良いんだよね?」
(あれ?)
平賀式部に支えられてた野々野足軽に力が戻った。そして口を開いたその言葉にちょっとした違和感を平賀式部は感じた。
(いま、敬語を……)
そんな風に思ったのだ。野々野足軽は別に普段から真面目を売り出してる男子ではない。そんなに喋る相手がいないから、そんなに会話してる所なんて見たことないが、平賀式部に対しては普通の言葉遣いをしてる。
だからこそ、咄嗟に出る……なんてことはないだろうと平賀式部は思う。
(咄嗟に出るとかは、普段からそっちに慣れてるから……の筈)
時々だが、男子にだって誰に対しても敬語で話す人ってのはいるかもしれない。でもあくまでも野々野足軽はそのタイプではない。それに違和感を感じる平賀式部だ。ちょっと違和感を感じつつも、でもそれ以上に優先することがあることに気づいた。
「もちろんです」
そう言って平賀式部はうなづいた。体を離す野々野足軽の温もりが名残惜しい気がするが、部屋に入って仕舞えば……と思ってそこはぐっと平賀式部は堪える。そうして二人は一緒にエレベーターへと入った。
エレベーターの中では会話はなかった。他の人がいたということもあったし、きっと野々野足軽だって部屋についての事を考えてると思った平賀式部だ。そして当然だけど、平賀式部だって色々とシュミレーションしてる。
(部屋に入ったらすぐに私の部屋? いやでも……積極的すぎるかな? それかもしかしたら玄関に入った瞬間に襲われるかも? それはそれでアリだけど……)
そんな妄想をしつつ、二人は目的の階で降りる。そして無言のまま歩き、扉の前でカードキーをかざす平賀式部。
ガチャ
−−そんな音がして扉が開く。さらにもう一度ガチャ−−と閉じるとそれと同時に野々野足軽が平賀式部の腕をとった。その行為に平賀式部は−−
(ここでなんだ)
−−と覚悟を決めた。