「それって……」
平賀式部が言った言葉が野々野足軽の頭の中で反芻されてる。アースがアホな事を言ったから僅かにでも人間としての理性が戻ってきたが、けど今の野々野足軽の感情はそのせいってのもある。このどうしようもない感情。体中が焼かれてるかの様に熱く、そして平賀式部と触れてる部分だけがやけに痛い。痛いというか、むずがゆいのかもしれない。 野々野足軽は自分から平賀式部を抱きしめた手前、離すこともできなくなってる。なにせ野々野足軽は固まってるのだ。その体がもう自分の物ではないかのようになってて、でもその感覚だけはとても鋭敏だ。野々野足軽はもう自分の体が理解できてない。思ってもなかった行動に出てしまうのもそうだし、今も思ってるように体が動かないのもそうだ。そして感覚だってバグってる。
そしてそして、平賀式部のこの発言――
「今日は誰もいない……よ」
――が脳の神経さえも焼き切ってるかのようだと野々野足軽は思ってる。
(これって、そういう事をしてもいいって事……そういう事……)
チラッと野々野足軽は抱きしめてる平賀式部へと視線を落とす。平賀式部のつむじがみえるだけだ。でも……そのふれてる部分の感覚は確かで……明確で……そしてやっぱり熱い。男子高校生の妄想力なら想像で全てを補えてしまう。つまりはそう……そういうのを想像してしまう。はだけた制服……覗く素肌。普段は見えないおへそやブラが覗いてる。そして野々野足軽と平賀式部の息が混ざり合う。 野々野足軽が平賀式部を押し倒してるその場面が……野々野足軽の脳裏には見えていた。
「うん、いいよ」
肩に手を置いて背伸びしてきた平賀式部。そして彼女は野々野足軽の耳元でそう囁いた。
バチン――
そんな音が本当に野々野足軽には聞こえてた。そしてそれからの記憶が野々野足軽にはなくなった。
(全く、しょうがないですね)
「野々野君? 野々野君!? 大丈夫?」
いきなり平賀式部的には野々野足軽の体重が重くなったかのように感じた。まるで体の全身の筋肉が緩んだかのよう……押し潰されそうな平賀式部はなんとか踏ん張ってるが、流石に女子高生が男子高校生の全体重を受け止めるのは厳しいものがある。
(野々野君、流石にここじゃまずいって!?)
焦ってるようで、実は全然嬉しそうな平賀式部だった。