「つっ!?」
野々野足軽はフラッとその体をゆらつかせた。その様子に平賀式部は慌てて、わずかだけ触れてた手じゃなく、その体を使って野々野足軽を支える。
「大丈夫ですか?」
「ごめん……」
そう言って野々野足軽はドキドキとしてた。なにせ今までで一番平賀式部が近くにいる。ちょっと気持ち悪くなってたわけだけど、今はその気持ちはどこへやら、一気にテンションが上がって、気持ちも高揚してる。てか高揚しすぎて、顔が暑くなってるほどだ。
でも努めてそれを悟られないように頑張ってる野々野足軽である。何かいい匂いが平賀式部からはしてる。女の子からするいい匂いだ。でも今ここで、それを鼻息荒く吸ったりしたら、「キモっ」とか思われることだろう。
平賀式部は優しいから態度に出すことはないだろう。けどそう思われるかもって思ったら怖いから、態度には出さないようにしてる。人とはそういうものだろう。だからその香りをもっと肺に送りたいと思ってもそれをグッと野々野足軽は我慢して、「ちょっと衝撃的で」といって心惜しいが離れた。実際のところ、野々野足軽の「衝撃的」って言葉は今見たサイコメトリの映像のことだった。
けど勿論だけど、平賀式部はその言葉が今渡した手紙のことだと思った。それだけこの手紙は平賀式部にとって衝撃的なものだったということだ。それは実際読んでみた野々野足軽にとってもそうだが、でもそれよりも強いインパクトを野々野足軽は頭に……いや、脳に感じていたんだ。
それだけサイコメトリで観た映像が衝撃だった。
「平賀さん……平賀さん……」
そう言ってそいつは手紙を書いてた。けどすぐにその視線のおかしさに気づいた。サイコメトリは思いを込めた人の一人称で見えたり、時に三人称だったりするが、その時はすぐにその人の視線と重なってると野々野足軽は気づいた。
そして『彼』が何をしながらこの手紙を書いたのか理解して……いやその理由は理解できなかったが、やってることがわかって野々野足軽は戦慄した。
「ふっふっふっ」
なんと彼はどうやら、逆立ちして、そして片腕で腕立て伏せをしつつ、もう一方の手を使ってこの詩をつづたったらしい。意味がわからない。なぜに筋トレをしつつ、こんな手紙を書いたのか……その意味がわからない。そしてそんなことをやってる彼の周囲はなぜか一面のお花畑だった。きっと周囲には彼の浮かれた気分が伝播してたんだろう。だから部屋とかそんなのじゃなく、サイコメトリは心情を読み取るわけだから、漏れ出た心象風景が現れて、花畑の中心で逆立ち腕立て伏せをしつつラブレターを書いてるという狂気の映像が生まれたみたいだ。
野々野足軽はこれをみて思わずふらついてしまったのだ。なにせ何一つ、野々野足軽には理解できなかったから。恐ろしく、そして衝撃的……理解できないその彼の行動に野々野足軽は怖いと思った。彼のことを「危険」と野々野足軽は認識したようだ。
こんなやつを平賀式部に近づけちゃいけないってね。