「ふふふ~」
ぱたぱたと足をベッドで動かしつつ、見てるのは皆で共有で使ってるスマホである。iPhoneとかいう高級な機種ではもちろんない。投げ売りされてた1円機種という奴である。
どうやらここの人たちはスマホを持つなんて夢のまた夢……という感じだったが、彼女が安く買える方法を知ってたから、いろいろなスマホ屋や家電屋を足で巡って特価をしてる場所を見つけて、そこに施設の管理人のおばさんを連れて行って契約してもらった。もちろんだけどスマホは機種代だけではない。契約して継続して使うためには毎月の代金が必要だ。
そしてやっぱりだけど誰もがそこがハードルでもある。施設のおばさんも一円だと聞いてもそれから毎月かかる代金が負担になる――といってた。
でも彼女はそれももちろん対策済みであった。安くで使える格安SIMも一緒に提案してプレゼンをしたんだ。そして手に入れたスマホ二台にタブレット一台。
その日はお祭り騒ぎだったのは言うまでもない。感謝される……そんな体験は彼女は初めてだった。誰かを自分の手で笑顔にした。その事実。今まで感じたことない感情が心にわいてきたのは――いうまでもない。
なにせ今まで彼女が受けてきた感情というのは大抵が良くない物だったからだ。蔑みの目、罵詈雑言。そんなものばかりだった。けど人生は変わった。よくわからないうちに女の子へと成って、人生はそれこそ180度変わったと言っていい。彼女は思ってた。きっと変わることができる……と。
「よしよし、このままいけばきっと彼女に……うしし」
そんな風にベッドの上でニヤニヤする。そして別の日に再びデートをするという約束を取り付ける。それから何度もデートを重ねた。そしてある日のデート、ビルの中庭? テラス? 展望デッキ? とかいうビルに植物とかが植えられててちょっとした休憩スペース的なそんな景色がいいところで彼女は彼に告白されてた。
「えっと、その僕達付き合ってみない?」
「うん! うん……本当に私……でいいの?」
「君がいいんだよ」
そう顔を赤らめながら言う彼。そんな彼を見てると思わず涙がこぼれてきた。なにせ今までの人生で彼女(彼)は欲したものを手に入れたことがなかったからだ。もちろん暴力を使えば手に入ったものはある。けどそれは結局、暴力を使って手に入るものでしかなかった。
けど暴力で手に入らないもの……その最たるものが心ではないだろうか? そもそもが彼女は優しい心になんて触れたことなかった。その心地よさ。その充足感。自分自身が今までは一番だった。彼女にとっては自分以外はどうでもいい存在。そのはずだった。
結局世界は自分が一番というのが彼女(彼)の心情だった。だからこそ、他人には何やってもいい。けど女の子になって優しさに触れてそうじゃないのかも……とか思ってた。そしてこの出来事。ずっと自分には手に入らないと思ってた物……それがここにある。
「えへへ……」
「はは」
そんな風に二人は笑い合う。どちらともなく手が触れて、指を絡める。絡まる暖かさが心に心地よかった。くすぐったくさえある。そしてそれが「幸せ」なんだと彼女は思ってた。
自然と見つめ合う二人。彼女は自然と目を瞑った。すると肩に彼の手が置かれたのが感じれる。きっと「初キッス」をここで終える――そう思った。けどなんだかいつまで待ってもその時は来なかった。
ふと目を開ける。
「え?」
すると周囲が……いや、世界が真っ暗な闇に染まってた。