野々野足軽は気づいてない。この音が世界中に轟いてることに……いろいろなところでこの音の正体というか、原因を誰もが気にしてる。ちょっとでも野々野足軽がほかの場所に視線や聴覚を向けてたら、その事を知れたかもしれない。けど野々野足軽は今、この時、この瞬間、この場に全力を出してた。いつもはそれこそいろんな場所の情報をえてるし、野々野足軽にとって重要な人たちのことはちゃんと把握できるようにしてる。それに天使っ子と悪魔っ子との通信の為のチャンネルだって確保してた。
でもそれらすべてを閉じて、野々野足軽は今あのドラゴンに向き合うつもりだった。なにせ相手はドラゴンである。ドラゴンといえば、ゲーム的には強敵だ。いろいろな物語で重要な役割を担ったりしてる存在。そんな存在に出会えた……事を喜べる場合じゃない。これが本当にこの世界に野良ドラゴンがいてくれたら、ただただ喜べた。
けど野々野足軽が今相対しようとしてるのはもとが風の少女である。その絶望でなぜかドラゴンになってしまった。全然ドラゴンに感動できる状況じゃない。それに穴を中心に音が響くごとに空に亀裂が入ってる。確実にあのドラゴンはあの穴の空間から出ようとしてる。間違いない。もしかしたら野々野足軽を追ってる……のかもしれない。
「端的に説明するぞ。あの穴の中で俺はお前と同じような存在に出会った。けど、きっと辛かったんだろう。そいつの力が暴走した。そして次に俺が行ったとき,お前と同じ存在はドラゴンになってた」
『なにそれ!?』
『えっと……それって悲しんでたの?』
その風の子の言葉に、野々野足軽はうなづいた。確かに風の少女は悲しんでた。そしてその果てに、彼女は異形の姿になってしまったんだ。
『なら助けてあげて。お願い!!』
「出来ることなら、助けたいけど……」
――という煮え切らない返ししかできない。でもそれを責めるなんてできないだろう。なにせ相手はドラゴンだ。これからドラゴンと戦う? そんな事を考えるだけで、野々野足軽の体は震えあがってる。
(せめて最初はゴブリンとかからだろ!?)
――とか野々野足軽は心の中で突っ込んでた。