「はあはあはあ……なんだあれ?」
あれは本当に人間だったのだろうか? 公園の遊具のなかに隠れてる山田奏はそんな事を思っていた。ただちょっとコンビニに行って帰ってくるだけだったのに……なんでこんなことになってしまったのか。
「誰かに恨まれた……うう、心当たりがありすぎる」
助けを求めたいが、下手に山田奏が助けを求めると周囲が騒ぎ立てて、大事になるかもしれない。だから下手にSNSに書き込む……とかやめた。なら親しい人たちだけに……となるが、山田奏は気遣いの人なのだ。こんな夜に……とか思ってしまう。誰とでも仲良くしてる山田奏はみんなに平等だった。誰か一人と突出して仲がいい……とかはない。誰とでもバランスよく、平均的に付き合うって事を意識してる。
もちろん、そんなのは実際は不可能だ。だからこそ、山田奏は自身の中でグループを作ってる。知り合いやクラスメイト、仲が良いグループに、そこそこのグループ。そのグループごとに平均で付き合うのだ。
だから実際は仲の良いグループが一番仲が良いのは確かだ。でもだからってそこでも絶対に突出はしない。それは山田奏が決めた覚悟……みたいな物だった。
「あの大きさ……人間なら話題になってた一年か?」
さっきのなにやら黒くてデカい奴を人間と仮定するなら……そして山田奏自身に恨みを持ちそうな大男ともなると、自然と絞られてくる。実際今の世の中、大きくてガタイの良い男性なんてのはそこら中に溢れててもおかしくなんて無い。
けど、それが身近に……さらには知り合いにいるとなる話は違ってくる。
「でもそもそも知り合いなのかはわかんないか……でもあの感覚」
山田奏はさっきの恐れ慄く様な感覚を思い出す。もしもさっきのがただの通りすがりなら、あんな感情……殺気をぶつけてくるだろうか? と山田奏は考える。どう考えてもあれは恨みとか……そんなのだった。向けられた明確な殺気……そんな時、道路の方に大きな人影が見えた。生け垣よりも高いその人影は、フードを目深に被ってるから顔は見えない。けどおかしい……何がおかしいかって? 今は人通りもなく、ここはちょっと路地に入ってるから車通りも少ない。それに夜だし、静かなものだ。
普通人が通ると足音とか、するだろう。あれだけ大きな人間ならなおさらだ。けどそいつは無音だった。無音なのに普通に歩いてるようにみえる。
(探してるのか?)
山田奏は息を押し殺す。こっちに来るな……と思いながらも、なんとかその正体をつかめないか……と遊具から顔を出して見ようとする。けど暗くてよくみえない。でも山田奏はスマホを持ってることに気づいた。
最近のスマホは夜でも良く撮れるようにナイトモードとかついてる。それを使えば……とか思った。シャッター音は予め消しておいて、カメラの部分だけを出して、シャッターチャンスを伺う。