ジャル爺さんにほだされてなんかあの場はこちらを取り込みたい側と、まだまだ信用できない側で平行線のまま終わった。だけど、この街のトップであるバジュール・ラパンさんは俺達とどうあっても繋がり持ちたいらしく、今は宴の様な物が開かれてる。
それはこの宮殿だけではなく、市内にも広がってる。街中には急遽出店が開かれ、陽気な音楽隊が町中を練り歩いてる。そしてパンパンと空には薄い色取り取りの煙が上がっては消えて行ってた。どうやらあれは盛り上げようとしてるらしい。
なんか気が抜けるが……街の住民達は盛り上がってるから、あれで良いんだろう。そして俺達の前には酒と豪華な料理が並んでる。料理名を聞いてもさっぱりなんの肉とかを使ってるのかはわからない。だが……
「なかなか美味だな。この魔王が認めてやる」
とかいってバクバクと食ってる魔王がいるから、まあ大丈夫だろう。というか、この体はたとえ毒とか食っても大丈夫な気はする。目の前には大皿にドカンと肉の丸焼きがある。それは黒光りしたソースが掛かってて本当なら近くに控えてる人に食べる分を切ってもらうんだろうが……魔王の奴はそれにまるごとかじりついてる。
当然、そういうのをやるのは魔王くらいだ。ここにはこの世界でも上品な人達が集まってるから、その行為に眉をひそめる人達もいる。けどあからさまな批判はしない。なにせ一応は俺達は客人だ。そしてこの宴は俺達をもてなすために、バジュール・ラパンさんが開いたもの。
そんな宴で空気を悪くするようなことを言うのは、ここの領主であるバジュール・ラパンさんを非難する事と変わらないからだ。どの世界にも、こういうのはあるんだなって、ちょっとイヤになる。だが料理を一口口に運んだらそんなの忘れた。なにせ上手い。
魔王の奴、どんな物でもバクバク口に入れて味なんて気にしない――そんな奴かと思ってたが、どうやら違ったらしい。あいつの舌は確かだ。この絶妙な火の通り具合……口に含んだ瞬間、舌の上で肉の味が広がり、掛かったソースがそれに彩りを加えてくれている。
なるほど、もっと一杯貰えば良かった。だがここにはまだまだ食事は一杯ある……だから大丈夫――
「よろしいですかな勇者様」
「あっ、ええ」
俺に話しかけて来たのはバジュール・ラパンさん。つまり無視なんてできない。何かこの街……いや世界の事でお願いされるかもと思ったが、どうやらそうじゃなく自慢の料理の事を語ってきた。面白い人である。そしてそんなに話も長くはない。
『私だけでは周囲の物に不満がたまりましょう。皆にあなた方を知ってもらいたいですから。どうでしょうか?」
「も……勿論」
俺はそういうしかなかった。そうして俺には次々とこの街の重鎮達や有力者達が群がってきた。おい、なんで魔王のほうへは一人もいかない!! お前もちょっとは担当しろよ!! 俺は心でそんな不満を爆発させてたが、表の顔は甘い微笑みを貼り付けて対応した
自分たちの世界での貴族との経験が役立ってた。ああ……これは料理にありつけないな……それも経験でわかった。