「旦那……俺達は……」
「うっ……」
軍の人達が憎しみをその腹の中に煮えたぎらせながらもなんとかしまい込んで自分たちのテントを回収してる。あのどら息子は強引に彼等のテントを奪ったが、あの城の出現で無造作にその奪ったテントを砂の上に捨ててたんだ。だから軍の人達はそれを回収してる。その背中が哀愁漂ってるというか……憎しみに煮えたぎってるというか……まあどっちにも見える。そして彼等……賞金稼ぎの奴らも当然、あの城をうらやましく思わないわけがない。誰が好き好んで人一人がやっとで寝れる程度のテントをありがたがるのか……そういうことだ。快適そうな場所があるのなら、そっちに行きたいのは自然な考えだろう。
でもそんな中でも唯我独尊の賞金稼ぎもいた。一人テントの側で城を見上げてる奴だ。彼は俺に詰め寄っては来てない。
「おい、お前だってそんなのよりもあっちが良いだろ?」
そんな風に賞金稼ぎの一人が参加して無い奴に声を掛ける。一人でも仲間が多ければ、意見が通るかも知れないというそんな打算だろう。けどその彼はその言葉にこう返した。
「イヤだね。何であんな五月蠅い奴と同じ場所に行きたがるんだが、理解に苦しむよ。トラブルしかあり得ないじゃないか。あれはあんなのでも権力はある。変な言いがかりで首を切り離されても困るから俺はこっちで良い」
「それは……」
「確かに……」
「あいつがいるんじゃ……な」
彼のその言葉でやっぱり止めようという空気が伝わっていく。おお、助かる。そうそうあんなトラブルの種みたいな奴とは一緒に居ない方が良いと思う! ホント誰だよ、あんな無能に権力持たせたの……まああいつの場合は生まれた時から権力者なんだけどな。やっぱり親の責任はデカいな。
「でも……勇者様はあっちに行くんですよね?」
誰かがそう言ったときに諦めようとしてた皆の足が止まる。せっかくテントの方に向かってたのに!? くっ、必要以上に親しくなってたのが仇になったか……でも魔王はあんな感じでコミュニケーション能力が無いに等しいからな。そしてジゼロワン殿はそもそもコミュニケーションを取る相手とは思われてない。なら俺がやるしかないじゃないか。
「おいおい勇者様を困らせるんじゃねーよ。勇者様はあの城に行くことであのあほんだらを押さえつけてくれるんだろう? そうでしょ」
「お、おう。その通りだ」
ナイスパスだ。彼はなんと言ったっけ? 確か「ペパヘクトス」だったかな? 憶えておこう。あのどら息子とそして魔王を抑える役目……それが俺にあると気付いて、皆納得してくれた。良かった良かった。これで何も問題ないな。これで当初の予定通り静の時間の検証が出来るだろう。