「まったく、誰も死なないで欲しいって言ったはずなのに」
そんな声が聞こえた。その声は私がとても聞きたかった声だった。優しくて、そして力強い。揺るぎない強さを感じるのに、あったかくて心にしみる。そう感じるのは、私がこの方に好意を抱いてる……からかもしれないが、その声が聞こえた瞬間荒くれ者たちである賞金稼ぎの人達も――
「「「旦那ぁ!!」」」
――と泣き入ってた。本当はローワイヤ様とか、私だって勇者様に抱き着きに行きたい。けど、むさい男たちに彼はもみくちゃにされてる。
「そんなことよりも……」
もみくちゃにされながらも、勇者様は伸ばした手を握りしめた。それが何かって感じだが、やけに拳をつくるだけで、そこにある何かを握りつぶすようにプルプルしてた。そして事実、勇者様が拳を握った瞬間に、結界の周りに広がってた炎は一瞬で消えた。
炎が消えた原因がなぜか勇者様が消したんだって、私は本能的に思った。だって今のは自然と消えた感じではない。何かからいきなり押し付けられて強制的に消されたように見えた。そんなことができるのは、勇者様以外にいない。
そして炎が消えた中から、さっき他の人たちにために炎をその身に受け入れた賞金稼ぎの人が尻もちをついていた。
「あ……あれ? 俺は……生きてる?」
「勝手に死のうとしないでください」
「勇者……の旦那……」
「いや、だから抱き着かないで……」
おっさんに抱き着かれて、若干引いてる勇者様。
「まあでも、皆さん助かりました。大丈夫、今度は油断しません」
そういって勇者様は前を見据える。勇者様の視線の先には老子バンドゥンがいる。そして彼はわなわなと震えていた。
「なぜ……そんな馬鹿な!!」
「なかなか焦りましたよ?」
「焦っただけだと? そんな馬鹿なことがあるわけがない! 貴様の精神は、あれに食われるはず。夢の中で、成す術などないはずだ!」
老子バンドゥンには余裕がなくなってるみたい。あの人からしたら、勇者様が戻ってくる……なんてことは考えられない事なんだろう。けど、私たちは信じてた。だって勇者様はいつだって私たちの常識ってやつを超えてきた。
だから私たちは簡単に受け入れられる。まあそもそも勇者様への攻撃がどんなものか、私たちはよくわかってないってのがあるけど……
「確かにあれはなかなかに不気味でしたね。でもそこまで強くはなかったですよ? それに完全に支配される前に倒せばいいだけのことでしたし」
「そんなことが……できるわけ……」
「できなかったら、自分はここにいないと思いますけど?」
確かにその通り。
「へ、流石旦那だな。俺たちの行動は無意味だったか」
「いえ、助かりましたよ。本当に」
そういって感謝の言葉を述べてくれるけど、うん……やっぱり勇者様なら一人でもなんとかしてたんだろうなって思う。けど私たちや賞金稼ぎの人達を気遣ってくれてる。彼はとても強い。けど、その強さをひけらかしたり、自分が強いからって私たちを見下すようなことはしない。
そういうところが、とっても素敵だと思う。
「そろそろ決着をつけましょう。貴方の知ってることをすべて話してくれるなら、手荒なことばしませんけど?」
「ふざけるな。儂は老子バンドゥンよ! 何も世界のことを知らぬやつに、おいそれと頭を下げるなど!!」
そういって老子バンドゥンは手を挙げる。それはたぶん何かの合図だ。けど、次の瞬間、その掲げた腕が吹き飛んだ。
「あっ……ああがあああああああああああ!!」
汚い声が夜空に響く。