「疲れた……」
学校が終わってまでつきまとわれたらどうしよう……とか思ってた野乃野足軽だが、それはなかった。なぜなら陽キャ達はそれぞれ部活動に行ってしまったからだ。さすがは陽キャ達、放課後になるまでにもかなりはしゃいでるだろうに、放課後になったら部活動までしてるなんて……感心してる野乃野足軽である。
今日は別に平賀式部に声をかけられることもなかった。
「ちょっと……」
残念だったな……とか思ったりして首を横に振るう野乃野足軽。
「いやいや、これが普通だ。気軽に平賀さんと話せるなんて思うなよ俺」
そう思い直して下校の道を進む。するとなんか頭に響く声が聞こえてた。
『待ってくだい。私はスタバという所に行ってみたいです!』
「却下で」
『なぜですか? 私は新作のキャラメルフラペチーノとか飲みたいです』
こいつ、一晩でどれだけ俗世に染まってるの? とか野乃野足軽は思う。頭が痛くなることである。最初見た時は神聖さとか感じてたと思うんだが、なんか今はそんなのがなくなった感じがしてならない。
あれだろうか? この世のものを食べたから、こっち側に落ちちゃった……とかそういう感じかもしれない。あの世のものを口にすると現世に戻ってこれなくなる……みたいな話を聞いたことが有る。それの逆版かと野乃野足軽は思った。
「いやいや、スタバとか入ったこと無いし。注文とかめっちゃ難しいんだぞ。出来るわけ無いじゃん」
野乃野足軽はそんなオシャレなカフェなんて行ったことなかった。せいぜい野乃野足軽が行ったこと有るのはファミレスくらいである。だからスタバなんてのはハードルがたかい。
(私はあれが飲みたいのです。飲みたいのです。飲みたいのです。飲みたいのです。飲みたいのです)
なんかアースのやつが野乃野足軽の頭にずっと「飲みたい飲みたい」と言い続ける機械になった。頭の中に直接響く声だから、耳を塞いだって聞こえてくるそのやり方はある意味で効果的と言わざるえない。
「ちょっとマジで静かにしてくれないか。そもそもお前が求める物を買うにはお金が必要なんだよ。それに対してお前は俺に何を与えられるかってことだよ。ただではダメでーす」
(対価を求める……ということですね。なら命の作り方を教えましょう)
「そんなしょぼい――んん?」
足が止まる野乃野足軽。今なんてアースは言ったか、数秒時を使った。そして確かめるように聞き返す。
「命の作り方? それって神様とかがヤるものじゃないか? 俺の力なんてくっそしょぼいんだが? それで命が作れるなんて思えないぞ」
ワクワクする気持ちは野乃野足軽にはもちろんある。けどアースはどこかずれてる。だからあまり歓喜しないようにしつつ、ちょっとの期待だけで済む感じに抑えてるのだ。流石に命を今の段階で作れるなんて……そんなわけないと、野乃野足軽は思ってる。その口で言った通り、命を作るなんてのは神の領分だとわきまえてるからだ。それでもアースはいうよ。なんともないような声で。
(命なんてそんな大層なものではないですよ。この世界の仕組みを教えてあげましょう)
それっていいものなのか? と野乃野足軽は思った。