(てーへんな事が起こった……)
(なんでそんなに冷静なんですか?)
(冷静なわけあるんめえ! 意味分かんねえべ!!)
(確かに、余裕はなさそうですね)
野乃野足軽は混乱してた。それが口調……というか脳内に現れてた。野乃野足軽は頭の中に相談できる奴がいるから、態度に出さずにいられるんだろう。周囲からみたら告白を受けてもずっと棒立ちしてるヤツ……になってる。
(どどどどど、どうしたらええ!? どうしたら正解だっちゃ!?)
(好きなんでしょう? 本心を返したら良いじゃないですか)
アースはごもっともなことを言ってた。確かに平賀式部は既に行動を起こしてる。そして野乃野足軽も平賀式部を好いてる。なら答えは単純だ。ただ「好き」を伝えればいい。
(いや……でも……今、それをすると……)
それがどういうことになるのか、それこそ頭の中で刹那のような時間で考える野乃野足軽だ。
「野乃野君……」
不安そうな平賀式部が野乃野足軽には見えてる。それはそうだろう。実際、そんな時間はたってない。それこそまだ、五分も経ってないだろう。けど、言っちゃった平賀式部は今この瞬間の時間をとても長く感じてるだろう。
それこそ野乃野足軽が答え――を返してくれるその瞬間まで、一秒が何倍にも伸びてる感覚になってておかしくない。平賀式部の顔は赤い。それこそ耳まで真っ赤になってる。それも当たり前だろう。だって公衆の面前で「好き」といったんだ。もしかしたら、言うまでは勢いだったのかもしれないが、こうやって野乃野足軽が答えを引っ張ってる間に冷静になったら……それはそれは恥ずかしくなってておかしくない。
(ここで好きって伝えたら……今まで秘密裏に探ってたこととか……意味なくないか?)
(今更ではないですか? なにせあの子から告白してきたんですから)
(そっか……それは……そうだよな)
野乃野足軽は「なんで?」とか「どうして?」を何回だって思う。何回だって思っても、もうこのことは取り消す……なんてのは不可能だ。「なーんちゃって」ってことには出来ないし、今やこの瞬間でもきっと拡散されてる。平賀式部が告白したという事実――は野乃野足軽の力でも消すことは出来ないだろう。
もしかしたらアースならやれなくはないかもしれない。それこそ全員の記憶を消すとか……さらにはネットに介入だって、アースならやれなくはないかもしれない。でもそれをアースがやる理由なんてないのだ。
野乃野足軽はまっすぐに平賀式部を見る。彼女はなんか泣きそうだった。いや、ここまで野乃野足軽が引っ張ってるせいだろうか? 一筋の涙が頬を伝う。それを見た瞬間に、野乃野足軽は決心した。
「ありがとう。俺も、平賀さんが好きだ」
そんな心が、野乃野足軽の口から自然と出てた。色んな困難を野乃野足軽は考えてた。けど、平賀式部の涙の前にはそんなのは些事でしかなかった。