「これはなかなかに深刻だね」
本当ならちゃんと訓練を受けた軍の生き残りの人達に動いてほしいが……トラウマはそう簡単に克服できるようなことじゃないよね。心の問題って言うのは難しい。それだけ彼らは地獄を体験したってことだろう。
軍の生き残りの人達はなんとか武器を取ってくれたけど、その心とは裏腹に体がどうやら砂獣に拒否反応を示してるみたいだね。
砂獣に近づくだけで吐くほどだからね。きっと嫌な光景がフラッシュバックしてるんじゃないだろうか? こればっかりは流石に解決方法がない。
「電撃当てたらピンポイントで忘れたりしないかな?」
ドローンは電気ショック使えるからね。上手くやれば……って流石にそんな都合のいいことはできないか。
「うお! なんだあれ?」
「やばいやつが来たぞ!!」
砂獣たちを屠ってた市民のみなさんが、そんな声をあげる。その視線の先からは体長三メートルくらいの二足歩行してる蟻がいた。なんで蟻が二足歩行してるんだって思うかもだけど、あれはヌメリアさんが産んだ砂獣の影響を受けた個体だ。特殊な進化を遂げてる。
まるで蟻の外皮をまとった人……みたいな体型になってる。二足で立つためにその部分はより強固に太くなってて、その間の脚は退化してるのか小さくなんか体に付いてるだけになってる。そして腕が生えてて、その腕も太くなってる。手はない。代わりに鋭い刃がその腕から生えてる。そして背中には外角を背負ってる様にかなりの猫背。頭はなんか黒光りしてて異常にでかい。そして口からはいくつもの牙というか、蟻の口そのままなのか、カチカチと気持ち悪くうごいてる。尻には丸っこいしっぽがついてる。
勇者があれを見逃す……なんて事はないと思うけど……何故にあんな危険そうな奴がここに?
『勇者何かありました?』
「なにやら自分を避けてるみたいです」
『そんな事……』
いや、たしかにこれまでの戦闘で勇者が別格の強さを誇ってるのは砂獣も本能で察知したとしてもおかしくない。てかこの波は教会の仕業の可能性が高いし、勇者を相手にするなって指示でもあったか?
向かってきてくれる方が倒す側としては楽だからね。勿論圧倒的に強かったら……だけど。勇者は圧倒的に強いから、いくら来られても問題なんてなかった。けど逃げると成れば、追いかけないといけない。そしてどうやら砂獣達は、追いかけてる勇者に遠距離攻撃をすることで対応してるようだ。
地味に行動を阻害してるってことだろう。こんな頭の良い行動するなんて……砂獣では考えられない。
そんな風に思ってる間に、進化した二足歩行の砂獣が武器を持った市民たちに襲いかかる。