「くっ……」
自分は暴れまくってる鬼に近づけないでいた。なにせ自分を全く意識してないように暴れ回ってる。地団駄を踏み、腕をジタバタさせてる。そして迷惑なのが、あの鬼がそんなことをすれば周囲に……いや世界に影響が出てしまってる……ということだ。奴が地団駄を踏むたびに大地は揺れて、見えるところで言うと、サーザインシャインインラの建物が崩壊してる。きっと別の場所でも同じように揺れてるだろう。
流石に震源地から遠くなれば、その揺れも軽微になるかもしれないが、それでも大地が揺れるという現象に恐れ慄く可能性は高い。それにこれだけ激しく揺れると、こっちに進軍してきてるアズバインバカラの軍隊がどうなってるのか……既にボロボロのサーザインシャインインラだが、このままでは跡形もなくなる……少なくともここにあった建物はこの揺れでそのほとんどを消失しそうだ。別に自分にはそれに対して思い入れはないが……今頑張ってる人たちのことを思うと早くまともになってもらわないと困る。
いや、あの鬼のまともな状態ってなんだよって感じではあるが、無駄に暴れない状態だ。
(やっぱりさっき変なのが出しゃばってきたせいか?)
(その可能性が高いっす。あれの後から、何やらやつの力に雑味があるっす)
雑味……力にはそれぞれ個人によって色が変わる……とか言われるからそれだろう。自分なら光のような力だし、魔王ならそれこそ滲み出るような闇だった。それにもっと根幹で世界ごとに力というのは違うらしい。だからこそ、この世界の力を通常では自分や魔王は取り込むことができない。根幹の力が違うからだ。
でもノアがいればそれができる。そして鬼の力はノアの力とユグドラシルシステムでなんとか……と思ってるわけだが、その雑味というのは影響があるのだろうか?
(なんとかなるのか?)
(力に変な意志が乗ってるっす。教会の小細工のようっすね。このままこれを取り込むと、主にもその影響が出るかもっす)
(自分も暴れ出すかもしれないと?)
(どういう風に影響が出るのは謎っすけど……いい方向ではないのは確かっすね)
そういうことらしい。けど疑問も湧く。
(一体何をやったらあの鬼の力に小細工を仕掛けられるんだ? 力の差はそれこそ圧倒的だったはずだ)
だからこそ、鬼は気にしてなんてなかった。なのに、こうやって暴れさせることができてる。それって一体……
(教会は鬼の弱点を知ってるとかっすかね?)
まあ確かにノアの言う通りのことくらいしか思いつかない。けど厄介なことをやってくれた……この鬼を落ち着けるはかなり大変だ。無駄に強大だから、下手な攻撃ではどうにもならないし……
(幸い、奴は己を見失って、こっちも気にもしてない……取り敢えず解析魔法を打ち込んでみるか)
めっちゃ暴れてる鬼だが、何か対象があってそれをやってるわけじゃなくなってる。どうやら直前まで戦ってた自分のこともその頭からすっぽりと抜けている。ならば……全て解析に振った魔法を打ち込んでやつの内部を曝け出すってことが可能かもしれない。
自分は距離を保って聖剣を聖銃へと姿を変えさせる。そして狙いを定めて、術式を構築。十を超える魔法陣が砲身の先に展開されて、その術を纏うようにして、弾丸を放った。