赤ちゃんの声が聞こえる……
(いやいやいや、怖い怖い怖い!!)
え? なに? なんで? ホラー? いきなりホラーが迫ってきてる。どういうことなの? なんで赤ちゃんの鳴き声が聞こえるわけ?
「ヌメリアさんから生まれたから……そもそもが赤ちゃん? もしかしたらあの小さな砂獣のベースはヌメリアさんにちゃんと宿った人の……」
そこまで考えて、私は言うのをやめた。だって……もしもそうなら……それって……それってすごく残酷なことだ。ヌメリアさんだって自分が生んだ化け物がもともとは自分に宿った人間の赤ちゃん……だとは思ってないだろう。
その生命を……存在を食いつぶして、あれは生まれてた来てたのかもしれない。だからこそ、こうやってあの小さなサソリ型の砂獣をスキャンしたらこんなことに……実際は特別な砂獣へとなった時点でその形はなくなってるというか……なくなってはないが、それは皮だけになってるというか……そんな感じになってはいるようだ。もしかたらだけど、それこそ本当は砂獣にはない『命』を媒介にしてるからこそ、砂獣が特別な進化をした……ということなのかもしれない。
「でも……普通やる?」
確かに教会の奴らにとっては、赤の他人の赤ちゃんなんてのはどうでもいい命なのかもしれない。でも普通は命って尊いものっておもわないだろうか? 赤の他人のものであってもさ……
「思わんないんだろうね。アイツラだもんね」
教会は腐ってる。そしてその上の奴ら程に、それは顕著だ。自分たちが楽すること、そして贅を尽くすことに執着してるし、楽園? に行くための踏み台に位にしか、この世界の人達を思ってないんだろう。
そもそもが教会の上層部たちにとっては、この世界に生きる自分たち以外は全て犠牲にしていい存在なのかもしれない。そういう風に確実に意識してるよね。奴らがおかしな選民思想になってしまったのは、ちょっとはあの神にも原因があるよね。もっと広く周知させてれば……
まあこの世界を作った神に文句言う権利は私にはないが……
「よしよし」
私は聞こえる声に、優しくそう返す。実際この赤ちゃんを救うことは出来ないだろう。だって既に砂獣として生まれてるわけだし、この魂は……変革してしまってる。神でも無い私は魂にまで干渉は出来ない。
まあけど、魂も一種のエネルギーだと考えれば……もしかしたらどうにか出来る可能性は無いわけじゃないけど……そこまでの知識が私にはまだないよ。だから私はこの子をせめて、安らかにしてあげようと思った。その涙を、止めてあげたいって……思ったんだ。