「どうぞ」
「いただき−−ハグっ」
目の前の野々野足軽はいただきます−−も言い終わる前に平賀式部が出してきたお菓子にかぶりついた。目の前にだされたそれは、とても美味しそうだったのだ。あまつさえ、野々野足軽の家では絶対に出されないような……いや買ってくることがないような……そんなお菓子だったから野々野足軽(アース)は我慢できなかった。
同じ形がない、カラフルなお菓子。それにいつもよりも香り高い匂いの紅茶もガブガブと飲む。それからしばらく出してくれた物を食べて飲みまくる野々野足軽(アース)。
「ふー」
「美味しかった?」
「ええ、それはもち……のろん!」
野々野足軽(アース)はいつものように喋りかけて、今は野々野足軽なのだとなんとか性別を意識した。アースにはそもそも性別なんてものはない。だからそういうことを今まで意識なんてしたことなかったが、野々野足軽と一緒になってることで、多少のことはわかってる。
男と女の違いくらいは……だが。なんでアースが野々野足軽の体を使ってるのか……というと、野々野足軽が意識を手放したから、その隙にアースがこれ幸いと野々野足軽の体を使ってるのだ。なぜかというと、目的は平賀式部−−が出すお菓子である。ここに以前来た時にそれはそれはいい感じの食事をした記憶が鮮烈にアースには残ってたのだ。
だからここはアース的には美味しいものが出てくる場所……なのだ。というわけで、野々野足軽が気を失ったのは困ることだった。なにせ直ぐに何か食べたかったからだ。なので今まではやらなかったことをアースはやってみた。それは肉体を乗っ取るということだ。普段はそんなことは絶対にしないアースだ。そもそも肉体……なんかにアースは興味なんてない。そんなのに縛られる意味がわからないからだ。
寧ろ肉体になんてものは不要な長物としか思ってない。
(やっぱりここで出てくる食べものは最高ですね。それに彼も財布が痛まないから最高でしょう。彼氏彼女がなんなのかよくわかってませんが、より深い仲になったというのなら、きっとここにくる頻度だって上がるでしょう。それは最高ではないですか)
−−とか野々野足軽(アース)は思ってた。今ままでは肉体なんて不要……でしかなかったアースだが、食べ物を美味しく感じる−−というただ一点だけは評価してた。そして平賀式部の家は最高級の食べ物をタダで出してくれる場所……というのがアースの中で確定したのだ。なのでこう思う。
「大切だよ。君のことが」
「え? 野々野君っ!?」
いきなりの野々野足軽のその言葉に平賀式部は感激してた。野々野足軽(アース)は思ってただけ……と思ってるが慣れない肉体で実は口から言葉が出てた。平賀式部は頬を両手で挟んで、のけぞってる。どこまでのけぞるのかと思ったら、そのままソファーの背もたれに限界まで倒れ込んだ。そしてなんか体をピクピクとしてる平賀式部だった。
アースは何気に自分がとんでもないことを言った……なんてことに気づいてなかった。これで更に平賀式部が野々野足軽に傾倒することになるなんて、考えてないのだ。