「ここは……」
そういう彼女は見覚えのある建物の前にいる。都会からちょっと離れた閑静といえばきこえはいいけど、東京だけど東京都は思えないくらいの地域のちょっと大きな家。そこに連れてこられた。ここは児童養護施設の一つの家だ。
「なんで……」
「あらあら、私はここのお母さんみたいなものよ。ここに来た子たちはみんな家族だからね」
そういって人のよさそうなふっくらとした女性が出迎えてくれた。送ってくれた警察官の人が挨拶してそして彼女を任せて帰っていく。その背中に手を向けそうになるが……彼女はそれが無駄だってわかってる。
(やっぱり逃げとくべきだった。またここに戻ってくるなんて)
そんな風に考えてる彼女。
「こんなところで立ち話もなんだし、ささ、入って入って。皆もすでに集まってるわよ」
そういっておばさんが彼女の手を取ってひっぱっていく。玄関には大小のたくさんの靴があふれんばかりにある。それも彼女の知ってる光景……なのに
「?」
なにか違和感を感じたようにちょっと首を傾ける。それに……
「くさい」
「あらあら、私くさかった?」
普通初対面の相手にくさいなんていったら気分を悪くするものだろう。けどおばさんはそんな事なかった。ただ「はっはっは」とか豪快に笑ってる。
「そうじゃなくて……匂いが……この家」
「ああ、アロマが好きな子がいてね。その子が匂いを気にしてくれてるのよ。苦手だった?」
「いや……ちょっと驚いただけだ」
「こら」
そういってピコん――と軽いデコピンを受ける彼女。そしてそのまま、その豊満な体で抱きしめられた。
「もう大丈夫。ここでなら、そんな鎧を着る必要なんてないのよ」
「……な、なんのことだよ。これは素なんだよ。なんせ育ちが悪いもんでさ」
「ふふ、育ちなんてその人の一つの要素よ。大丈夫誰だって幸せになれるのよ」
そういっておばさんは体を離して彼女を引っ張っていく。そしてリビングにいって、そこに集まってる男女に彼女を紹介した。そこにいたのは皆、健全な感じだった。いや健全というか、みんな清潔な服を着て、健康的そうに成長してる。
それはとても普通の事。なのにその光景をみて彼女は驚いてた。
(本当にここって俺が知ってるクソな施設か?)
そんな風に思ってた。