uenoutaの日記

好きなものを描いたり、買ったものを紹介していきます。

ある日、超能力に目覚めた件 214P

はあはあ……

 

「〇〇くん! 〇〇くーーーん!! どこーーー!!」

 

 彼女は暗闇の中を走ってた。荒い息を吐きながら周囲をキョロキョロと見渡しながら、どこかに何かがないか……目を凝らしてる。けど、何も……何もなかった。パシャパシャと水を踏むような足音が聞こえてる。さっきまで雨なんてもちろん降ってなかったし、今も降ってない。けど足元には水があるかのようにパシャパシャとなってる。

 

「はあはあはあ……」

 

 息が続かなくて両膝に両手をついた彼女。真っ暗な空間だけど、足元には自身の姿が写ってた。自分を中心に波紋が広がってる。動いてないから、波紋が広がるなんておかしいはずだ。けど、波紋は常にどうやら彼女を中心にこの真っ暗な空間に広がってる。

 

『楽しめたか?』

 

 そんな声が聞こえた。思わず彼女は「誰!?」と叫ぶ。そして周囲を見回した。けど何もみえない。

 

パシャ――パシャ――

 

 と足を動かすたびにその音が響く。

 

『もう夢は十分見ただろ? それにこれが現実じゃないって本当はわかってたはずだ。ずっとずっと……これは』

「やめろ!! やめてくれ!!」

 

 聞こえる男の声。その声が彼女は聞き覚えがあることに気づいた。そしてすぐに耳を塞ぐ。

 

『意味なんてない。そんな事。なぁ、わかってるだろう? これが夢だってな』

「そんなわけ無い!! これは現実なんだ。私は……俺は女になったんだ! そして家族ができて、彼氏だって!!」

『ははっ、何いってんだよ。俺のようなクズに、そんなのできるわけ無いだろ? それはお前自身が一番良くわかってるはずだ』

「違う!! 違う違う違う!! 俺は……『私』はお前じゃない!!」

 

 暗闇の空間に彼女の声だけが響く、彼女はふらついてる。聞こえる声を振り払うように頭を振るってる。そして気づいた。下を向いた時に、その暗い水に映るその姿に。

 

「お前は……」

『俺はお前だよ。本当のお前だ。そうだろ?』

「違う!! そんな訳……ない……そんな」

 

 その時、水の中の彼が迫ってくる。ただ水が人の形を取ってるだけのような……そんな感じで、その中に十字傷の男の姿を映してるって感じ。

 

「やめ……ろ。やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 そんな声とともに、彼女はその水に包まれてそして沈んでいった。