「なに……やってる?」
埃が充満して視界が悪い中、十字傷の男はなんとか無事だった。鉄骨が倒れてきて、とっさにバウアーをかばったのはいいが、実際あの瞬間「あっ、死んだ」と十字傷の男は思った。
(でも、せめてバウアーだけでも)
そんな気持ちでバウアーを守るように上に覆いかぶさったわけだ。けど、そんな十字傷の男には死は訪れなかった。いくら埃が凄くても少しは――半径一メートルくらいは見える。どうやら運よく? 十字傷の男をよけて鉄骨やら木材やらは散乱してる。
そうぽっかりとバウアーと十字傷の男の場所だけをうまくよけてる。
(これって……)
なにかの疑問……疑惑……そんなのが十字傷の男には生まれてた。なにせ……だ。なにせ不自然……それだっだ。こんなことがあり得るのか? と思うのはこの光景を見たら誰だってそうだろう。
「「うわあああああああああああああ!?」」
そんな疑問を持ってるときにそんな二人の声が聞こえきた。そしてさらには十字傷の男に対する言葉までだ。
(何が起こってる?)
そう思うの自然な事。だって、十字傷の男は動いてない。もちろんだが、何もしてなんてない。なのに……だ。なのに、聞こえてくる会話は十字傷の男自身と、そして舎弟の二人が争ってるような……そんな会話である。
十字傷の男は訳が分からない。何か言いたかったが、まるで何かに声が封じられてるように、十字傷の男は声を出すことができなかった。ようやくだがちょっとだけ周囲がわかるようになってきた。その前にも大きく舎弟の悲鳴が響いた。そして一つの人影。立ってるその足元にはなにやらうごめく何かがみえた。
「俺たちをなんで……」
「なんで……捨てるんだよ」
そんな弱弱しい声が聞こえる。きっとあの足元のもぞもぞとしてるのは舎弟の二人なんだろうと十字傷の男は思った。
(じゃあ、あれは? あれは誰だ!?)
その疑問はもっともだ。そしてさらに頭を混乱させる声が聞こえる。
「なぁ俺たちの関係はなんでもねえよ。ただ歪なだけだ。それを尊いものだって、大切なものだってお前たちは思ってた。ただ傷をなめあってただけなのにな。
お前たちも知ってみるといい……愛って奴を」
それは確かに十字傷の男の声だった。だからこそ、ぎりっと下唇噛んだ。だってそれは誰かが十字傷の男に成りすましてるってことだ。声は出ない……でも、体は動きそうだった。
けど懸念がある。それはバウアーの事だ。かなり痛めつけられてる……それにさっきの音とかでおびえてる。そんなバウアーから離れるなんて……と思ってる。
でもそんなことを思ってると、男の方から光が見えた。淡い光だ。紫の怪しい光……それがまるで炎のように揺らめいてる。そしてそいつは……その光を二人に押し付けようとしてるのか、腰を落としてる。
その時、バウアーが頭をグリグリとしてくる。まるで「行ってやれ」……そういってるかのよう。そんなバウアーに応えるように一撫でして十字傷の男はその何者かへと向かった。