それからあるビルに入っていく十字傷の男。そこは郊外で、なにやら燃えたような跡もある廃ビルだ。明らかに火災があって放棄されたような……そんなビル。けど周辺はそこそこな住宅街になってるような感じでもある。そんな所にぽっかりとある廃ビルはブルーシートが掛けられたままでもあって……異質さを放ってる。
「キャウン!!」
「つっ!?」
聞こえた悲痛な叫び。慌てて十字傷の男は不気味なビルへと入ってく。こんな景観に影響ありそうな建物なんてさっさと取り壊して別の建物を建てたりしそうだが……それができてないということは、何か別の理由があったりしそうである。
それに夕暮れも過ぎて日も傾きだしたこの時間帯ではより不気味に見えてる。でもそんなの気にするような奴ではなかった。普通の人なら近づくのも躊躇いそうな……そんな様相なのに十字傷の男は何のためらいもなくビルに入っていく。
そもそもが十字傷の男は犬(バウアー)のことで頭がいっぱいで外観なんて確認程度しかしてないだろう。それに以前はここに半分住んでたみたいな感じだった十字傷の男である。
その時も別になんかおかしなことが起こった……みたいな経験はなかった。だから躊躇いなんてない。寧ろさっさと犬を取り返すことしかその頭にはなかった。
ガンガンガン――
と派手な音が響く。なにせ瓦礫とかゴミとかが一階には散乱してる。きっと十字傷の男たちが住み着く前とかにはそれこそ肝試しの場所とか、そもそもがヤンチャな奴とかが中に入ってたんだろう。それが容易にわかる。なにせ一部にはタバコの吸い殻に灰皿代わりの空き缶が放置されてる。
だがそんなのも十字傷の男はきにしない。なにせ彼らが勝手に住み着いてた場所もそんな感じだからだ。派手な音を立てて住み慣れてた三階部分まできた。そこはある程度は生活できるようなスペースが確保されてる。まあゴミは放置されまくってて、それこそ空き缶や食べ物のゴミが大量にある。
以前まではこんな環境が普通だった十字傷の男だ。けど、そんな十字傷の男のはずだが、この場所に改めて来てみればその酷さが分かったのか、顔をしかめた。
そして暗闇の中で小さなキャンプ用のランタンで光源を確保してる中、二人の男がみえた。さらにはその後ろで転がされてる犬の姿。
「バウアー!!」
そういって走り出そうとした十字傷の男の前に二人の男が立つ。一人は金髪に鼻ピアスの男だ。そしてもう一人は赤く染めて側面を刈り上げてる耳にジャラジャラとピアスを大量につけてる男だ。
「お前ら、どけ……」
十字傷の男の声はドスが聞いていた。それに眉と瞼がぴくぴくと動いてる。これはかなりご立腹だ。付き合いが長い二人はそれが分かるだろう。取り巻きだったのなら、暴れだした十字傷の男がどれだけ危険かもわかってるはず。
そして明確な上下関係があったのなら、腕力では勝てないことさえも分かってておかしくない。それさえ忘れたとかいう頭の悪さでは無ければ……だが。