uenoutaの日記

好きなものを描いたり、買ったものを紹介していきます。

ある日、超能力が目覚めた件 322P

 小気味良い音が店内に鳴り響いた。一瞬にして静まり返る店内。さっきまではまだ野次馬として楽しむ余裕もあった人たちでさえ、流石に暴力を振るったところを見てしまうと、引いてしまうらしい。それに、きっとそれはそれをやったのが彼女−−つまりは女性側だったと言うのもあるだろう。
 だってそれぞれには連れの男性……つまりは野々野足軽と仮面の男な訳だが。そんな男性がいたのだ。もしも暴力沙汰が起きるとしても、それはきっと男同士で起きることだろう−−という思いがあったんだと思う。実際、野々野足軽だってそう思ってた。もしも何かあれば……あの男が平賀式部に変な事をしようものなら、野々野足軽は自身の彼女を守るために暴力だって厭わない覚悟をしてた。
 
 でも……だ。なんと野々野足軽に暴力を振るったのは男ではなかった。女性だった。しかもさらに言うと彼女は美女だ。大人のお姉さん−−そんな感じの見た目。もしも今、野々野足軽がこの人に反撃したらどうなるだろうか? 確かに先に殴ったのは彼女である。それは間違いないし、店内の人たちはそれが分かってないわけがない。それにいざとなったら防犯カメラだってあるだろう。そこに間違いなく今の彼女の暴力は記録されてるはずだ。
 けどだからってそれでも野々野足軽が悪者になる可能性はある。だってなぜなら、彼女は美女だからだ。そもそもが男が女に手を挙げる――なんてのは忌避されがちだ。だから暴力を使った瞬間……先に手を出されたとしても、男は女に対して不利っていう……
 
「お、おい、いくらなんでもそれは……」
 
 むしろそんなふうに仮面の男の方が動揺してる。まさか彼女が野々野足軽を叩くなんて思ってもなかったんだろう。そこまでする必要なんてない――仮面の男もそう思ってた。
 
「大丈夫ですよ。障害はすぐに排除しますね」
「いや、えっと……」
「あなた達は許されない事をしたんです。私と彼の間に入った。あの人の事を否定した。彼はあんなにも完璧なのに」
「いやー」
 
 なんか照れてる仮面の男。いや、そこは疑問に思えよ……と野々野足軽は思った。てか……眼の前の女性はやっぱり何か……どこかおかしい。そんなふうに野々野足軽は思う。さらにはこんな事も彼女は言ってきた。
 
「その子も……渡してください」
「なに……を?」
「彼はその子をお望みです。だから、ください」
 
 
 やばい――と野々野足軽は思った。確かにこの仮面の男もおかしい。けど、その原因を作ったのは野々野足軽だ。だからこいつがこんなに調子に乗ってるのは理解してるつもりの野々野足軽だ。原因の一端がある……と言ってもおかしくない、というかそのとおりだからだ。けど……けどこの女性はどうだ? 何故に彼女がそんな言動をするのか、全く持って意味不明。殴られたこともそうだし、今言ってることも意味不明過ぎた。
 
 だって普通は自身がデート中に同じ女性が関わってきた……となれば怒るのはわかる。いきなり横から現れた女が彼氏を誘惑してる……となるからだ。実際、そんな感じだったから野々野足軽も叩かれたんだろうって思ってた。なぜに自分が? という思いはあったが、それならわかる。けどそうでもない。だって彼女は平賀式部をよこせ……と、この仮面の男に差し出せと言ってる。
 
 そんなの普通は許せるか? 彼女なのに他の女を積極的に彼氏にあてがう? それってどこかの国ではありえるのか? とか野々野足軽は考える。