「すみませんけど、僕は彼女を渡すことは出来ません。だって彼女は俺の大切な人だから」
キュン――そんな胸の高鳴りを平賀式部は感じてた。なにせ普段はそんなに男らしいところを見せない野々野足軽である。そんな彼が今はっきりと平賀式部の事を『大切な人』と表現した。それも第三者……というか公衆の面前でである。
これには誰だってキュンってするだろう。けどどうやら目の前の女性には全然違うらしい。
「はぁ。いいですか? そんな事を聞いてる訳じゃないんです。あなたの感情なんてどうでもいいの。そこのそこそこの女を献上しなさい」
そこそこの女……という単語にもちょっとだけ反応しそうになる平賀式部である。だって彼女は自身の容姿の良さは自覚してる方である。そもそもがこれまでの人生で不細工なんて言われたことがない人種だ。だからムウ……となってるわけだが、それでも我慢出来てるのは抱きとめてくれてる野々野足軽の手に力が籠ったのが分かったからだ。
(怒ってくれてる)
それが伝わるだけで、平賀式部は愛されてる……と実感できてた。てかこの人の言い分を聞いてしまうと、この女が慕ってるあの男はどこぞの王族かVIPなのかと思ってしまう。実際はそんなことはないんだが……でも彼女はまるであの男をそんな風に扱ってるだろう。どうしてそこまでするのかは謎だ。
けど勿論だけどそんなことは許されない。だから理屈なんて通用しないだろうこの女ではなく野々野足軽は仮面の男をみる。
「こんな事を言ってますけど?」
「はははは……うん、ごめん。ほら、やりすぎだよ。別にそこまでは望んてないから」
「でも貴方の寵愛を受けれるというのに拒むなんて罪ですよ? じゃあ死罪にしますか?」
「資材?」
「極刑……つまりは死刑です」
「そんな事出来るわけだろ!?」
「できますよ。バレなければいいのです」
「…………」
やばい……とこの店内にいる誰もが思っただろう。普通ならね。でもそれを聞いても、仮面の男は大きくわらった。
「それだけ俺は魅力的ってことか」
「当然です」
「でも俺はいいといってるんだ。この意味、わかるか?」
「……うっ。ご、ごめんなさい」
あほな事を言ってると思ってた仮面の男だが、言う時にはいうらしい。そのちょっと強引なところもいいのか、美女は何故かトロトロな顔してる。
(絶対にあの女はやばい)
とか野々野足軽は思ってるんだが、美女に全肯定されるのは気持ちいいんだろう。男なら憧れたりするのも野々野足軽はわかる。けど明らかにヤバいだろう女に入れ込まれてるのはやばいだろうと野々野足軽は思ってた。関わったら逃げられないような……女郎蜘蛛の様な女。
「貴方は……なんで……いや、もういいです。とりあえず今回の暴力は見逃します。なのでこっちが不用意にそっちにかかわったのも水に流してください。これ以上はお互い関わらないってことで」
「あ、ああ、うん、それがいいな」
仮面の男は簡単に野々野足軽の提案を受け入れた。きっとこれ以上一緒にいて秘密をばらされるのを恐れたからだろう。そういう事で、お互いに納得したうえで、ここでは分かれることにした二組であった。