「えっと……あの!」
なんかとても小悪魔的に微笑んで平賀式部は仮面の男とそれと一緒にいる美女に話しかけにいった。けど……だ。けど、そもそもが平賀式部はそんなコミュ力が高い方ではない。
だってそもそもが平賀式部は教室でもほぼ野々野足軽としか話さないし、それ以前も友達――といえるような存在は確認できなかった。
だからこそ……だからこそ、そんな自分の『好き』の相手が自分以外の女に興味を抱いてる。それは平賀式部にとっては怒りももちろんあるが、恐れだってあった。だって……だ。だって平賀式部は他人が思うよりも普通の少女だったからだ。
確かに平賀式部はとてもかわいい。そして美人だ。十人いたら八人は認める美人だろう。そしてそれを自覚はしてる。けど……だ。でもだからって平賀式部はそれだけで誰かを繋ぎ止めておけるとは思ってない。美人でかわいいだけでなんでも手に入るのかってことだ。
実際は平賀式部は美人でかわいくて、ついでにいえばそこそこの家のお嬢様である。だから大抵の物が手に入るだろう。けど心は? 人の心をどうやって繋ぎ止めておくのか……とかそんなのはどんな本にも載ってなんてなかった。
参考文献があればそれを参考にも出来るが、どれもこれもいうのは人の心は複雑という事ばかりである。でもだからこそ、色んな物語が出来上がる。それを面白いとも平賀式部は思ってる。
けどだからこそ、自分の容姿だけでは自信が持てない。それに……だ。それに近づいてみたが、目の前の女性は確かに綺麗だった。平賀式部をなんかめっちゃにらむように見てくるが、それでもわかる顔の良さ。
美人で並ばれたら、あとは一体何で対抗できる? と平賀式部は思う。だからこそ、次の言葉がでてこない。だからなんか近づいた不審な人……みたいな感じになってる平賀式部。
すると仮面をつけた男が口を開く。
「わーお。君可愛いね。全く俺ってやっぱり魅力ありすぎだよね。大丈夫、俺は俺を好きになった女を全て愛するぜ。それがイケメンの責務だからな」
――とかなんとか頭悪そうな事を言ってた。