(山田先輩は……)
やっぱりヒーローと言えばイケメンに限る――と思ってる野々野足軽である。だからこそその人を探してるわけだけど、一番簡単なのはどう考えても直接野々野足軽が行くこと……である。けど流石にそれはやりたくないと思ってるみたいだ。
(これ以上俺が出るのは悪魔に気づかれるリスクがあるし……)
別に野々野足軽は平賀式部に義理立てて朝倉先輩の救出に赴かないわけじゃない……と心の中で言い訳してる。どうやら野々野足軽は悪魔を警戒してるみたいだ。その気になれば悪魔を消滅させるのなんて簡単なのに、一体何を警戒してるのか? と思うかもしれないが、つまりは野々野足軽は今もこうやって悪魔を妨害してるのが自分自身である――という事への導線を残したくないという事のようだ。
考えすぎかもしれないが、前に妨害した時も野々野足軽はそこにいた。あの時は悪魔はただ調子悪かったみたいな感じで終わったわけだが、同じことがまた起こった今、まだ悪魔は「今日は調子悪いかもしれない」と思ってる段階なのに、もしもここで野々野足軽が姿を見せたらどうなる?
いや、悪魔はそんなに頭を使うような存在ではないかもしれない。けど「あの時も確か……」とか思う可能性はある。そしてさらにまた別の機会で野々野足軽が姿を見せたら、きっと確信に変わる。薄い導線でも、何度も同じような状況で同じ奴の姿がある……となったら、どんな馬鹿でも疑うだろう。そういう足跡を野々野足軽は残したくない……と思ってる。
(ヒーロー体質で実はすぐ近くにいてくれる……とかだとありがたかったんだけど……)
見つけた山田先輩は全然違うところにいた。どうやら友達と遊んでるみたいだ。流石はイケメンである。まあ今一緒にいるのは男だが。これが外ならまだどうにかして誘導する……とか野々野足軽なら力でどうにかできたかもしれない。でも山田先輩は友達と一緒にカラオケにいる。流石にここで山田先輩だけ風で無理やり移動させるとかできるわけない。
(なんでもできると思ってたのに……)
野々野足軽は早い絶望を味わってた。力も高まって、ドラゴンも倒した。新たな風の力は応用で風という概念を超えてくれることに感動してたんだ。自分への全能感……けど今、それが消えたといっていい。
(やっぱり俺はまだまだだな)