「くっ……」
「ありがとうお前たち」
そんな事をつぶやく桶狭間忠国。それがどういう意味なのか、悪魔憑きの女性も、そして朝倉先輩もわかってないだろう。だってすでに彼らに関心がある人は桶狭間忠国以外にいない。だから桶狭間忠国はまるで独り言を言ってる様にみえる。けど違う。いや、違わないけど……桶狭間忠国の中ではちゃんと会話をしてるのだ。
誰と? それは筋肉である。彼は自身の筋肉と会話ができる特殊能力を持ってた。だから今も筋肉と会話してる。筋肉がムキムキと震えて桶狭間忠国を鼓舞してくれる。目が明らかに普通のそれとは違った悪魔憑きの女性。
けどそれにも筋肉のお陰で立ち向かえる。
「頭がおかしいやつか。自身の中でだけ思いを完結出来る。そういうやつには確かに効きにくい。頭がおかしい筋肉バカめ」
前にもこんな経験があるのか、悪魔憑きの女性はそんな事をいう。けどそんな言葉にはぶれない桶狭間忠国である。でも相手が化け物の類てあるとわかってるのは桶狭間忠国だけだ。傍目からみたら、桶狭間忠国は大男で、そして向こうはきれいな女性。目がちょっとおかしいが、傍目にはそこまでわからないだろう。
のっしのっし……と桶狭間忠国は更に二人に近づく。そして腕を差し込んで「ちょっと失礼」と二人の間に強引に体を押し入れる。それによって朝倉先輩を守るように立ち、悪魔憑きの女性には壁の様に立ちふさがる。
「触ったわね」
でもそういうことじゃないんだろうな? と桶狭間忠国は考えてる。きっと触れることで、なにかより強い力を発動できる……みたいなのだろう。そして次の瞬間、平衡感覚がグラッと揺らいだ。世界が波打って見える桶狭間忠国。その膝が地面についた。
「あらあらどうしたのかしら? 体調が悪くなったのかしら。大変、早く休みなさい」