(行ける。このまま――)
ズシュ――
「桶狭間さん!」
その声は野々野小頭だ。このメンバーなら野々野小頭しかその苗字をしらない。それに一番関係性がこの中では深い。だからこそ、叫んだ。けどそれでも野々野小頭だってそこまでの関係性ではないんだが……なにせ今日の数時間前に会ったくらいである。
でもそれでも知り合いの腹に穴が開くというのは女子中学生にはショッキングな光景だった。そう、背後から見てる野々野小頭達にもわかる。その大きな桶狭間忠国の背中から、うねうねと動く鋭利な尻尾が飛び出てた。
「ぐっ……ふ……」
「アギャギャギャギャギャ――ぎゃあ!?」
あざ笑うような声が高鳴った。人のそれではないような声。不安が皆の心に広がっていってた。でもそこで唐突に悪魔のような女性の声が止まって、吹っ飛んだ。でもそれだけじゃない。もちろんそれをやったのは桶狭間忠国だ。
彼しかいない。人の体が数メートル単位で吹っ飛びそうなくらいの勢いが彼女にはついてた。でもとんでもない事をさらに桶狭間忠国はやった。
「うんぬぃぃぃあああああああああああああああああああ!!」
歯を食いしばって桶狭間忠国は体を奮い立たせた。最初の一発を食らわせて、それで悪魔のような女性は吹っ飛んだ。けど桶狭間忠国は逃がさなかった。自身に刺さった彼女の尻尾……それを桶狭間忠国は握ってた。わざわざ抜けないように。そして伸びきったその尻尾をもう一度引いて彼女を近くに寄せると再びその拳を叩き込む。
ドカァン! ドガァン! ズガァン!
とかもう鳴ってはいけないような音と共に、悪魔のような女性の体が何回も何回も舞う。まるで壁に当たって跳ね返ってきてるボールを撃ち返す壁打ちをやってるかのようだった。
とんでもない……誰もその場で声を出すことが出来なかった。桶狭間忠国のその鬼気迫る勢いに皆が飲まれてた。そしてそれはこの場にいる草陰草案達だけじゃない。モニター越しの何百、何千、何万という人達もそうだ。ただ食い入るようにその映像を見てた。
でも次の瞬間、悪魔のような女性は反撃した。あれだけ殴っても彼女は無事だった。何回も自身に叩き込まれた拳。それを直前で回避して逆に桶狭間忠国の顎に蹴りをぶち込んだ。そして尻尾の拘束をといて、さらに今度は一方的に彼女が桶狭間忠国を攻撃しだす。
そして彼は……桶狭間忠国は全身を血まみれにして、白目をむいて大の字にその場に倒れ伏した。