アホみたいな、それこそ冗談の様な死者数を出した事件の犯人……それがこの知的眼鏡のお姉さんだという。そして今まさに連行されようとしてる彼女を彼は救いたいらしい。
けと流石に八億人は……ね。それが事実だとしたら、一体罪はどれほどになるのか? というか、一人の命で償いきれるものじゃないと思う。よしんば死刑だったとして……それで罪が償えるか? といったら……ね。まあこの彼はそもそもが納得いってないようだけど……
『あれは事故だ!! 仕方なかったことだ!』
なるほど、事件ではなく、事故とすることで彼女の責任を回避しようと……そういう事らしい。確かに事故となると個人の罪として裁くのは……
『それでも彼女の責任が無くなることはない。なにせ彼女は責任者だ。その責任がゼロになることはない』
確かに。責任者が責任逃れをしようとするのはそれもよくあるよね。なんのための責任者だ! と言いたくなるような……さ。実際八億人を殺してしまった責任なんて、それこそ逃げ出してもおかしくない。
でも知的美人さんは逃げずにここにいる。
『それは……それでも!』
『もういいんです』
なにかまだいいそうだった彼に、その凛とした声が突き刺さる。声を発したのは知的美人さんだ。
『これは、私の責任です。他の誰でもない。私の取るべき責任なの』
どうやら知的美人さんは逃げる気は微塵もないらしい。はっきりいって格好いいと思った。私なら八億人の命の責任を取らされるとなったら逃げるけどね。
無理じゃん……だって無理じゃん。てかどんなふうに責任取らせられるのか、それだけで怖い。
『それがなんだ!! お前は天才だ!! 俺と並ぶほどの天才だ!! その頭脳は人類の宝だろう。死んだ奴の何人が人類の進歩に貢献できる?
断言してやる!! 八億人の中にお前ほどの天才はいない!! 命の価値は平等なんかじゃない!! お前なら八億人の命を償えるだけの進歩を示せるはずだ!! これは! 人類の損失だぞ!!』
そんな主張を力いっぱい彼はした。誰の目も憚ることなく、彼はそれを言い切ったのだ。遺族がこの場にいたら、殴られても文句は言えない主張だ。けど、彼はそれを本気で思ってる。
言い訳とかじゃない。そんなの一ミリもない。ただただそれが彼の本心だと、私にはわかる。