砂が波の様に揺れる。いくつもの渦が出来て、全員、飲まれないようにひっつき、腕を組んで足を踏ん張る。そして渦から黒光りする硬い胴体と、幾重もの足をワチャワチャとする長い体の砂獣が現れた。これがここ最近、この街道に出没してるという砂獣か。
デカい……街の建物の大抵の物よりもデカいぞ。これとため張れるのはそれこそ王宮くらいだろう。そんなのがこんな付近にポンポンと現れるんだから、この世界の過酷さが現れてる。よくもまあ、今までよく彼等が生きてる。
「全員武器を抜け! やるぞ!!」
俺はそう言って真っ先に砂を蹴る。砂が大きく後ろに弾け、其れと同時に体が大きく前に出る。地上から体が離れ、ぐんぐんと空に昇る。たった一足でそれだ。前も力任せにそれは出来た。だが、今はもう軽く地面を蹴るだけで出来る。
意識しないと、大地を割る程だ。だが、ここは砂、そんな心配は無い。一気に俺は出てきた砂獣の一体に近付く。そして聖剣を一閃。俺が通り過ぎると同時に、砂獣体がズレて砂に落ちていく。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお! 流石旦那!!」
そんな声が聞こえる。これで皆か臆する事が無くなるなら、万々歳だ。まあ俺よりも長く砂獣と戦ってきてる彼等だ。俺が思うほどに弱くはない。だが、何故か最近は強力な差獣がよく出る様になってるらしい。これもその内の一つだ。
今までは街道は重要だからこそ、警備だって他よりも多くて、安全の為に出た砂獣は真っ先に倒してらしい。でも、そんな警備のプロフェッショナル達がやられた。そして次々と投入した戦力もこいつらにことごとくやられたんだ。そうしてお鉢が回ってきたのが俺だ。
魔王ではなく? と思うかもしれないが、魔王は別の所に行ってる。今は砂獣が何故か活性化してるから、問題は山積みなんだ。俺が地上に落ちてる中、近くの砂獣がその大きな口を開けて、汚いよだれをまき散らしながら、迫ってくる。そしてそのままばっくりと食われる。
「くっさいな」
そんな暢気な事を言ってるが、実は砂獣の鋭い牙がガツンガツン当たってる。前の肉体なら、ここで確実に終わってただろう。牙に串刺しにされ、咀嚼される度に自分の体がズタボロになってたはずだ。だが今はそんな事はない。牙は俺の体に傷をつける事は出来ず、簡単に口の中に入り込める。なら飲み込もうとしてるが、其れよりも早く、輝く聖剣を俺は振るった。光が砂獣の口から吹き荒れて空が見える。俺はそこから悠々と外に出る。
相手にならない。このくらいなら。