『アインラザード』は中央を囲む五つの街の一つだ。アズバインバカラが経済を主体に置く街なら、ここは技術を研究するそんな街。黒い煙がもうもうと立ち上り、この街だけは黒い煙が作る雲で空が覆われて、日差しが届かない。だからこそ、ここの人達は他の街の様な布を被ってない。
でもだからって肌を晒してるわけじゃない。寧ろ他の街よりも皆が厚着をしてる。それはこの街の空気が悪いからだ。肌を晒してるとこの街独自の病気に晒される。肌が黒くなっていき、そして終いには死んでしまう。そんな病。
そんな病があるから、ここの人達は日差しもないのに、厚い布を体に巻いてる。そして恒常的に咳をしてた。でもそれだけだ。技術を担当してる街だけに、日光がなくても、この街は明るい。そしてガシャガシャと砂獣の様な変な乗り物が闊歩してる。六つの脚がある黒い物体。
ここは技術の街。アインラザード。皆が機械を弄ってる街。そしてガラクタで作られた壁がこの街を守ってる。皆は黒い雲の下だが、それでも笑って生きている。なにせこの世界の人達は頑丈だ。対策をしてれば、黒くなって死ぬことはない。
そしてここアインラザードは資源が多い。だからこそ、砂獣への対策だって万全だ。いくつかの街が落ちようと、このアインラザードが落ちる事はない。それが人類の共通認識……だった。その日、壁の上に、一つの異形の形があった。黒い翼を持ち、ヘビの頭に馬の体。そんな異形の砂獣が街の壁に現れた。砂獣の襲来はすぐさま町中に知らされる。
大きな音が街には響いた。だけど、そこまでの混乱はない。なにせ大仰な軍隊が直ぐに出てくるからだ。この街には賞金稼ぎなんて集団はいない。なにせ大きな経済が強大な軍を編成してるからだ。そして最新の装備。街中から光が走る。それらが砂獣へと降り注ぐ。
だが砂獣は優雅に壁を飛び降りて滑空する。翼を広げ、ゆっくりとだ。そこに更に光が追いすがってくる。けど、それを砂獣は甲高い鳴き声で誘爆させた。そして降り立つ一つの建物。その中には大事を取って建物内にいた人が……砂獣は躊躇いなんてなかった。
次の獲物を求めて砂獣が壁から顔をだす。その瞬間にアインラザードの軍が一斉に斬りかかる。その刃は刀身が何やら回転して五月蠅い音を出していた。砂獣の周りにはふかしのフィールドがあるのか、その刃は砂獣の体まで届かない。だが……その刀身の回転も音もどんどん大きくなっていく。そしてその砂獣のフィールドを壊し、砂獣の体に攻撃が食い込んだ。
羽が片翼落ちる。だが次の瞬間、接近してた軍の半数のクビが吹き飛んだ。見えない速さの攻撃だった。危機を感じた軍は後方に置いていた部隊に指示を飛ばして、再び光を砂獣へと発射する。直撃して、砂獣は壁まで吹きとんだ。
だがまだこれで終わりではない。アインラザードは秘密兵器を使う。アインラザードの待ちにある四つの塔。それが向きを変え、エネルギーを一つに収束していく。青白い光がアインラザードの街を照らしていた。放たれる特大の光。壁の一部を犠牲にしてでもというその一撃は大きな揺れを街全体へと伝える。
「なんだと……」
だれかがそんな事をいった。砂獣はその攻撃を受け止めて……いや、食べていた。大きく口を開き、その攻撃を吸い込んでいる。そうして光がなくなると同時に、「ゲップ」という下品な音をだしていた。そして次の瞬間、砂獣の翼にさっきの光が現れる。切り裂いた筈の片翼も復活してる。そして上空に上がった。アインラザードの軍の攻撃が届かない位置。
そこで地上に向かって口を開いた。放たれたのはさっきの光。砂獣はさっきの攻撃をそっくりそのまま返してきた。
そしてその日、アインラザードという街が砂に埋まった。