体の使用許可をノアの奴にくれてやった瞬間に、自分の意識はかつて自分の世界で自分が勇者として旅立つ前まで住んでた家の中に居た。
そこは本当に何もない……いや、別に貧乏だったから……とかじゃなく、普通にド田舎だったからただ物が少なかったって言うだけだけど。
そんなとても懐かしい……というか自分でも忘れかけてた様な場所。ずっとかえってなんか無かった。てか、無理だった。いつか……そういつか全部終わったら、帰ってくるって……そんな風に旅立った場所だった。
今だと、とても遠くに感じるそんな場所の筈。でも……やっぱりだけど、ここで育ったからだろう、懐かしい。小さなリビングとお風呂がある場所と、トイレ、そして二階の寝るところしかないそんな小さな家だった。
リビングにだって、三人が囲んでいっぱいいっぱいのテーブルがあって、三つの椅子。後は調理をするための釜とかしかないような……そんな本当に何もない家。
自分は父親が木を組み合わせて作った自家製の椅子にいつの間にか腰掛けててそこから部屋を見回してる。
「なんか……こんなに小さかったんだな……」
久々に見た実家はとても……うん、旅だった頃よりもとてもこぢんまりとして見えた。旅だって二・三年は経ったからな。自分も大きくなったんだろう。
凄く懐かしい気分で居る――でも思い出した。
「いやいや、感傷に浸ってる場合じゃない。状況を考えろ」
そう、今はのんびりとしてる場合じゃない。ギリギリの場面だった筈だ。自分はノアの奴に体を明け渡した……そしてここにいる。まさかノアもいままでここに居たのだろうか?
いやだからそれはいい。どうなってるかが問題だ。
「外の様子は……」
普通に扉を開ければ良いのか? とか思ってると、テーブルになんか映ってた。実家のテーブルはこんな高性能ではなかったが……でもここは現実じゃない。きっと自分の深層心理等なんだろうからな……心の中なら、何が起きてもおかしくない。
そしてその映像を見ると、力の質が変わったからか、聖銃のはなつ光か金色から赤い物に変わってた。それに聖銃もなんか白と金で構成されてた色をしてたのに、今は何か黒と赤になってる……いや、それだけじゃない。
自分の肌の色とかも、なんかあの世界の住人のように浅黒くなってる。黄金だった自分の髪も、なんか赤みが増してるし……完全に支配権を入れ替えた影響か? まあとにかく、また戻れば元に戻るだろう。だから今は気にしない。問題はノアの奴が上手くやってくれるか……だ。
でもその心配は杞憂だった。この世界の力と近くなったからだろう。都市核にも浸透しやすくなった放たれた力が超巨大な隕石を貫いた。
「よし!」
自分はそれを見てグッとと拳を握った。そして更に内部からいくつもの光が出てきて、超巨大だった隕石……いや都市核を破壊する。更に驚くことに、なんかノアの奴はいくつかの都市核を取込んでる? それでも大量にある残骸を力で覆ってこの空間の弱い部分へとぶつけて、この空間が崩壊し出す。ようやく出られる。
そして気づくと薄暗い場所に出てた。自分達が来たときにあった黒い穴は無くなってる。
「よし、よくやったノア。入れ替わるぞ。……ノア?」
「くくく、あはははははははははははははははははは。勇者の旦那、いつ俺がこの体を返すなんて言いましたっけ?」
そんな事をノアの奴はのたまりやがった。