朝食の場では足軽が変な悲鳴を上げたことをからかわれて、なかなかに恥ずかしい思いをしたが、朝食はつつがなく終わった。本当はすぐにでも謎の力の検証をしたかったが、なんと既に七時を回ってた。足軽はいつもは五時くらいに起きて朝活をやってるのに……だ。きっとあの夢……というか体験のせいだろうと思った。
そもそもが小頭がすぐにやってきたことからも気づくべきだった。いつもなら小頭は足軽が起きてる時間には起きてない。それなのに今はもう朝食まで準備が終わってる。時間なんてないはずだ。
いつもは余裕な準備を慌てて済ませて、とりあえずちょっとの時間でも隙間時間を作った足軽は緊張した面持ちでもう一度ベッドの上で瞑想の態勢になって体を浮かした……
「これしかできないのかな?」
そんな疑問が生まれた。そもそもがこの力が何なのか全く足軽にはわからない。「超能力」とかそれとも「魔法」だろうか? と考える。でも今は時間がない。とりあえずどれだけ宙に浮いてられるか――を検証した。検証した結果、三十秒くらいが限界だった。
五センチだけ、三十秒浮ける能力? あまりにも微妙だ――と足軽は思った。
「うぐっ……」
立ち上がった瞬間にめまいがした……けどなんとか耐えて頭を振るう足軽。
「やばいなこれ……」
あまりにも費用対効果が低い。何の役に立つかもわからない……ちょっと失望しかけたが、まだ浮いただけだ……と足軽は必死に言い聞かせる。
「別のこともできるかもしれない」
それを希望に今日を乗り越えるために学校に出発した。
学校はいつも通りだった。別に昨日の夜に未確認飛行物体を見たとか、人間が飛んでたなんて噂は微塵もなかった。いつも通りの日常をいつも通りにこなして、一日を終えた足軽は速攻で家に帰ってきて自室に引きこもった。なにせ足軽にとってはこれからが本番だ。
「これとこれと……これも参考になりそうだな」
とりあえずタブレットから参考になりそうな漫画を選んでパパっと見返す。それは能力物や超能力関係の漫画だ。ここにあるのを試してみれば、自分がどんな力を持ってるのかそれがわかると足軽は思った。
とりあえずちょっとだけ浮くことはできるから、ノートに浮けると書いた。
「炎よでよ!」
そう口に出して手のひらに炎が出るイメージをする。すると何か手の平の上でバチバチとはじけはいる……が炎にはなりえなかった。
「イメージが駄目なのか?」
だいたいの物にはイメージが大切とかいてある。それからも炎を出すために足軽は色々とイメージを変えてやってみた。すると線香花火的な火花を出せた。
「まあまずはこれくらいでいいだろう」
よくよく考えたら、いきなり部屋の中で火炎放射器クラスの炎が出たら困るだろう。なにせこの家のローンはまだ絶賛清算中だ。きっと家が燃えたら両親が死ぬほど落ち込むことだろう――と足軽は思った。
「よし! 次は――水よでよ!」
今度は炎で培ったイメージを参考に最初は手のひらにほんの少しの水たまりが出るイメージでやってみた。すると……うっすらと足軽の手のひらに水たまりができた。
「汗……じゃないよな?」
なかなかに怪しい量だった。でもとりあえず疲れたし出来たと思うことにした。ノートに火花とちょっとの水が出せると書いた。
「よし! 次……は……はれ?」
なんかクラっときた、そしてそのままベッドに倒れた足軽は意識を手放した。
母親の声に足軽の意識はひっぱりあげられた。
「母さん?」
「まったくあんたが寝てるなんて珍しいわね。もう夕飯できてるわよ」
「え? 今何時?」
「もう七時半ね」
「そんなに……」
かえって来たのは五時くらいだったはず。能力の検証は三十分もできなかったと思うと、二時間くらいは寝てたことになる。たったあれだけで二時間も強制的に眠らされた――それはめっちゃ効率悪い……と足軽は思った。
「あんた大丈夫? 朝の叫びもそうだし……病院行く?」
「いや、いい。大丈夫だから」
「そう?」
足軽の母が心配そうな顔を向けてたが、それを交わして足軽は夕食に向かう。そしていつもの夕食を家族でとって、お風呂に入って部屋に戻ってくる。
ちなみに風呂でもう一度水の検証を足軽は行ってた。もしかしたら素材……というかそういうのがあった方がやりやすいのでは? と思ったんだ。だって有名な漫画のセリフでも――
『水が無いところでこれほどの水遁を!?』
――という忍者漫画がある。それはつまり素材であるものがあった方が力は使いやすいのではないかと思ったからだ。まあけど……結論から言うと足軽は自分ちの風呂でおぼれかけた。
風呂の水を操るイメージを想像してみたのだが、次の瞬間意識が朦朧として、体の自由がきかなくなった。そして偶々ボディーソープが切れてたから母親が入ってきて異変に気付かなかったら……あのまま足軽はご臨終だったかもしれないのだ。
流石に家族は異変を感じていたが、そこはなんとか強がった足軽はこうやって自分の部屋へと戻ってきてた。
「これ以上へまをする訳にはいかないな」
流石に次は問答無用で病院に担ぎ込まれるだろうことは足軽には想像に難くなかった。そこで何も異常がなければいい……でも何か人じゃない何かでも発見されたら……それを思うと恐ろしかった。その覚悟はまだできてない。それにそんな異常を存在を周囲がどうするかわからない。
漫画とかではよく秘密組織がそういう奴を実験材料とかにするからだ。最悪はそうなるかもしれない。
(漫画の影響受けすぎ? でも……実際自分には不思議な力がある)
自分にあるのなら他の誰かにもあってもおかしくない……と足軽は思ってる。あくまでも自分だけが特別なんて、彼は思わない。なにせ彼は特別であったことがないからだ。
自分にできることは誰かにもできる……そういうものだと思ってる。ならその存在をしってる組織や団体とかがあってもおかしくはない。
(せめて自分と家族を守れるくらいにはなっときたいよな)
なのでまだこの力がばれるようなことになるわけにはいかないのだ。そう決意する足軽だった。