「いったい何を……いえ、私のような矮小な存在ではその高尚な考えなど……感服です」
そういって目の前で桶狭間忠国がひざまずく。それに対して野々野足軽はこう思ってた。
(何言ってんだこいつ? きもいな)
とね。なにせ野々野足軽にはそんな高尚な考えなんてない。けど、桶狭間忠国から見たら野々野足軽がやったことはとんでもないことなんだ。
なにせあの十字傷の男はその界隈ならそれこそ「あの十字傷の奴――」というだけで、恐れられるような奴だ。けどそれこそただの一般人とかはそんな情報に触れることがないし、SNSに流れてくることもないから、野々野足軽とかは自分がやったことがやっぱりそんな凄いことなんて思えない。
いや、それこそやったことだけならかなり凄いことだとは思ってる。なにせ野々野足軽は力をもって、その人の心を変えたのだ。この世の中、人は簡単には変わらないとか言われる。
そしてそれは歳を食ってればその分だけ、変わることは難しい。実際あの十字傷の男はそこそこだったと思う。若い……とはまでは言われなくても、おじさんまでは行ってない感じ。でも大体は二十歳までにはその人の人格というのは形成されてるんじゃないだろうか?
でも野々野足軽はそれを変えたんだ。それは誰かの――なんてのを考えなくても凄いことだと思ってる。だから野々野足軽的にはあの十字傷の男とは関係なく褒められた方がしっくり来た。
けどどうやら桶狭間忠国はあの十字傷の男を詳しく知ってるらしい。だからこそ、どうやらその人物を変えたことに対してのことが先に来てる。
「ま、なかなかいい検証だった。迷惑な奴を消すんじゃなくて、変えるっていうさ」
そういいつつ、野々野足軽はその手に紫の光を集める。そしてそれを見て、桶狭間忠国がごくりと喉を鳴らした。
「お前も……やってみるか? どうなりたい?」
「こ、光栄です! 光栄です……が、私にはまだどうしたいというのは……私は全力全霊をもって、貴方を支えたいのです!」
「お、おう……まあ冗談だよ」
あまりの桶狭間忠国の熱量にちょっと引き気味の野々野足軽。なんでもかんでも野々野足軽の言葉は超重要な事……まさに勅命かのように受け止めてしまう桶狭間忠国。
とりあえず出した光を手を握ることで消した。実際、今のはただ紫色の光を出しただけで、力なんてものは載せてなかった。ただちょっと格好いい光を作り出したかっただけ。
「でも今回はうまくいったが、実際、あいつが極端な人生歩んでたからってのがあるな。普通の、それこそ俺みたいな人生なら、きっと考え方とか変わらないだろうし」
「はは、面白い冗談ですね」
「は?」
なんかイラっとしたから、脳みそを力で回してやる野々野足軽。その瞬間、桶狭間忠国はその場に倒れた。けど元から跪いてたからきっとダメージはないだろう。
野々野足軽は自分のことを平々凡々な人生を歩んできた……というのは考え方をかえてない。実際この年までの野々野足軽の人生に劇的な事なんてなかったんだ。
だからなんか笑われたことが野々野足軽は自分の平凡な人生を否定されたように感じた。別に満足してたわけでもない。けど、もっと早くからこの力が目覚めていれば……とか思っても野々野足軽はないんだ。
ただ今「力」はここにある。
「それでいいんだよ」