「一体何が……だ、大丈夫――」
「こないで!」
ビクッとその声に兵士は動作を停止させる。ペニーニャイアンはおびえてる。男が怖い……なんて筈はない。なにせこれまで何人もの男をこいつは食ってきたはずだ。
軟禁されてるといっても、それなりに快適な生活をさせてもらってるはずの彼女である。既に尋問は終わって、ペニーニャイアンから搾り取れる情報は搾り取れてる。
それに……だ。それに今やこっち側には聖女である『ミレナパウス』さんがいる。そっちの方が協力的だし、さらに深い事を色々と聞いてるから、ぶっちゃけもうペニーニャイアンなんて必要ない……くらいである。
過激派の中にはペニーニャイアンを見せしめのために公開処刑するべきだ――という奴らだっているほどである。なにせ……だ。なにせペニーニャイアンとそしてミレナパウスさんがくれた教会の内部の情報によって、自分たちがただの贄……それかただの家畜程度だとしか思われてないとわかったのだ。
見せしめしてしまえ――というのもわかる話ではある。そしてペニーニャイアンはそれだけの罪を犯してる。なにせこれまで遊び半分で沢山の人達を殺してるからだ。
そういう風に育てられた……と言ってしまえばそれまでだけど、実際都合のいい存在なんだ。なにせ巫女であるペニーニャイアンの上位互換のような聖女ミレナパウスがこっちに来たことで、どう考えても利用価値的にミレナパウスさんの方が高いのである。
今のアズバインバカラじゃなかったら、口減らしの為にも教会の悪を象徴する存在、そして教会を恐れないという王の威勢の表明として公開処刑は実際にあったといえる。
でも今のアズバインバカラはそれこそ私たちの技術によって水も食料も困らずにある。それに土地だって……だ。本当ならこの世界の土地は都市核が守れる範囲しか人は住めない。
だからこそ、人口というのは制限されてしまう。まあけど、そもそもが物資が少ない世界である。そこまで爆発的に増えるなんてこともできなかったわけだ。
でも今や、それらの制限がここアズバインバカラや近くのジャルバジャルではなくなってる。物資は私が作った施設が色々と生産してくれてるからね。
だからかなりの人口を今はカバーできる。そして複数の都市核でこれまでよりも広い土地を確保できてる。砂漠の世界であるここはどうあっても物資不足から逃れられない世界だ。まあそれも過剰に教会が中央にだけ集約してるせいでもある。なにせ中央には太った奴らが多い。
太れるほどに色々とあるということだ。それなのに他の街では皆ガリガリ……は言いすぎだね。この世界の人たちはあんまり食べてないのに、屈強な人たちがおおい。多分少ない食料でも効率的にエネルギーを吸収できるような体してるんだろう。それに元から筋肉質だしね。
まあアズバインバカラやジャルバジャルはもうそんなことも心配する必要もないから、もしかしたらこれからはどんどん成長する奴が増えて身長も平均2メートル……とかになるかもしれない。わかんないが。
異常なペニーニャイアンの様子に、動けないでいる兵士。すると彼女は声を絞り出すようにいうよ。
「お願い、勇者を……あいつを呼んで……」
「な、何を? あなたはそんな要求でき――」
「いいから、これは重要な事よ!!」
「ひっ!?」
何もできない、魔法も使えない筈のペニーニャイアンだ。その体を使えば、兵士が組み敷くなんてたやすいはずなのに、彼はペニーニャイアンのいう事を聞くしかなかった。それだけその時のペニーニャイアンには迫力があったんだろう。
それからほどなくして、勇者がやってきた。