「まったく、こんな人間がいるとはな」
そんなことを言った悪魔。するとその尻尾の先端……三角錐というかそんな感じの形になってた部分がぱかっと開いた。そして尻尾の根元、お尻の部分が一気に大きくなって、それが先端まで移動してくる。なかなかに硬そうな尻尾なんだけど……そんな尻尾がパンパンに膨らんでた。
そしてそれが先端までくると、一気に先端からピンク色の煙が噴き出した。ここはビルの間の風通りも悪い場所だ。だからその煙は濃く立ち込める。あっという間に二人の姿が煙にかくされた。まあそれでも野々野足軽には見えてる。でも桶狭間忠国からは見えないだろう。
悪魔の方からは見えてるのか……それはよくわからない。普通に考えたら悪魔の方も見えてないと思えるが……けど自分でも見えないようにするなんて間抜けにもほどがある。
だからきっと悪魔には見えてるんだろう。野々野足軽は警戒してる。なにせこの何も見えない視界である。下手したら一撃で決まる。桶狭間忠国はかなり戦闘的な勘には優れてるけど、悪魔には人間にはない武器がある。そう尻尾である。人間とは戦いなれてても、桶狭間忠国はその尻尾に翻弄されてた。それに尻尾はイメージよりも全然太いといっても、体全体を動かすよりも、きっと周囲への影響を少なく動けるだろう。
この煙の中、その影響を最小限にして動いて近づき、プスリ……とされる可能性がある。それが心臓なのか、はたまた頭なのかは悪魔の気分次第。実際それが出来るポテンシャルがあることが問題だ。否応なく、野々野足軽は警戒する。
「全く、これも効かないわけね。やめよやめ。あんたみたいなの、私の好みでもないし、あの人にだって男を献上なんてできないわ。けど一つ言っとくわ。今度私の前に現れたらその時は――」
トン
(気づかなかった!?)
驚愕だ。警戒はしてた。実際、防御も厚くしてたから、桶狭間忠国の体を貫かれる……ということはなかっただろう。悪魔にその気があったとしても……だ。でもそれでも……この警戒してる中、こうも簡単に心臓にたどり着かれた。それが野々野足軽に冷や汗をかかせてる。
「――容赦なく殺してあげる」
そういって煙が薄くなるころには悪魔はどっかに消えていた。いや、野々野足軽はそのこそこそとして帰っていってる悪魔の姿もばっちりと見えてたわけだが……でも野々野足軽は自身を戒めてた。なにせ今回の戦いでは何回も危ない場面があった。
だからこそ、もっとやる気をみなぎらせてた。その大きな拳を握りしめてた。