魔王の攻撃は奴らに届く。けど……反応はない。多分向こうがデカすぎて、気付いてない? それかもしくは反応するほどのことでもないのかも知れない。何せ奴らは巨大だ。俺達がパワーアップしたと言っても、奴らにとっては虫のような物……気にするほどのことではないのかも。
「ちっ、無駄か」
魔王はそう言って自身の指を噛んで血を出した。まあこの体も日々高精度になって行ってる。血くらい表現できる。
「盟約に従い我が前に姿を現せ――ベルゼブブ」
魔王のその言葉に血が反応する。魔王の血が空中に集まっていき、光り出したと思ったら、次の瞬間にはそこに気持ち悪い物がいた。羽音を響かせて頭大の大きさをしたそれは蠅だった。デカい蠅ははっきり言って気持ち悪い。それに目が……目が普通の蠅の目じゃなくて、俺達の様な目が沢山詰まってるみたいになってて、それがぎょろぎょろと動いてる。
「キィーヒッヒッヒ、ご無沙汰しております魔王様。今日はどのようなご用件で――って貴様は勇者、ここであったが百年目! 我らの恨み晴らしてくれようぞ!!」
なんかそんな言葉が頭に響いてくる。こいつの口はネチャネチャと動いてるが、そこからは声は聞こえてこない。ネチャネチャしてるだけだ。直接頭に響くような声と共にベルゼブブは俺へと突っ込んで来ようとしたが、その時魔王がベルゼブブをわしづかみにした。
「貴様を呼んだのは勇者にけしかけるためではない」
「えっと、では何を? あのー魔王様? なんかとても悪い予感がするのですが……」
「心配するな。立派に我の役に立て」
そう言って魔王はベルゼブブを外に放り投げた。するとベランダから少し出た瞬間に、ベルゼブブの姿は見えなく成ったんだ。そして手次の瞬間――
「みぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!! みゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」
――と言う断末魔の叫びだけが聞こえた。それは数十秒は続いただろうか? そして行き成りその叫びも消える。俺はゴクリとつばを飲み込んだ。けど魔王はいたって平静だ。そして再び、血を流して詠唱をする。
「盟約に従い我が前に姿を現せ――ベルゼブブ」
だがその血は集まっていく物の、弾けるように飛び散るだけだった。何も現れることはない。
「どうやら、存在自体が完全に消滅したらしいな」
「ベルゼブブは荒れに耐えられなかったって事か……」
どうやら静の時間の時、この安全地帯の外には相当のリスクがあるようだ。まあ俺達も一度経験してるからそれはわかってはいたが……魔王の奴、流石に魔王らしいことをやりやがった。自分の部下を実験台に……ベルゼブブ……お前のことは、多分直ぐに忘れてしまうが済まない。お前の死を無駄にはしないさ。