「ふふ、どちら様でしょう? 私は神託の三柱の一人ペニーニャイアンと申します」
そう言って縦ロールの彼女は口元を隠してた扇子をおろして、微笑んだ。さっきまでの鋭い視線が嘘の様な柔和な笑み。男なら、そんな笑顔を向けられたら、一気に彼女が好きになってしまいそうな……そんな魔性の笑みだ。
まあ俺はそんな安い男ではないが――
「ごご、ご丁寧にどうも……自分は……」
――めっちゃしどろごもった……いやだって、確かに俺は勇者だが、そういう事は……ね。
するとローワイヤさんが俺の腕をとって、ペニーニャイアンへと向いた。
「ペニーニャイアン様、ご紹介します。此の方は勇者様ですわ。私を救い……そして……私の心を虜にした方です」
「まあまあ、そういうことなのですか。それはそれは、とても喜ばしい事ですね」
なんか普通に受け入れてくれてる? てか、ローワイヤさんがとんでもない事を言ってるが、まあその設定で通すって聞いてるし、下手に否定はしないさ。
今の所、ペニーニャイアンからは最初の睨み意外の敵意は見えない。でも油断は出来ない。とりあえず揺さぶりをかけてみようか。なんか今は喜んでる感じを出してるし、無視はしないだろう。
「えっと、すみません。さっきここを通ったときに、なにか壊しちゃったみたいなんです。本当にすみません!」
「え? そうなんですか勇者様?」
俺はあの黒い鏡を壊したと素直にいってみた。あれは何かの間違いで、自分を締め出そうとしたわけではないですよね? ――的な内心を秘めてる。
「そうですか? 大丈夫ですよ。気にしないでください。治す事は簡単ですから」
そう言ってペニーニャイアンは指につけてる指輪の一つにキスをした。すると光が沢山出てくる。そしてそれに「お願い」とというと、こっちに向かってきた。俺達はそれをよけた。すると俺達の後方で光の中へと消えていく。この部屋には扉はない。あの黒い鏡はこっちからは見えてない。だから多分、あの光は外側の黒い鏡を修復しに向かったんだろう。
でもまさか……
(自分がこの建物を掌握してるのは隠さないんだな)
それはつまり、さっきの所業って自分の仕業ですって向こうも暗に言ってる。どうやらやっぱり全然油断できそうにないな。
「ペーニャ、私が二人を連れてきたんたよ? 褒めて褒めて〰」
「よくやりましたねピローネ」
「えへへー」
「ローワイヤも、大変だったでしょう。改めて我らの同胞の巫女を助けくださってありがとうございます」
こうやって見ると、とても常識的な人に見えるんだけどな……でもこの人がローワイヤさんを殺そうとしてたのは明らかなんだ。この女神のような微笑みの下には悪魔のような一面が確かにある。