俺は壁に刺した聖剣へと力を送る。さっくり刺さったから、案外柔いのかもしれない。だからかちょっといたずら心が出てくる。なにせ俺はかなりの力があると自負してる。この世界だけしか知らない、そんな存在に遅れを取る程に弱くはないつもりだ。もちろん慢心はしないし、今は守らないといけない人達もいる。あまり遊ぶことはできないが……自分の事を特別だと思ってるやつにちょっとしたお灸を据えるくらいはしてもいいだろう。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
聖剣の輝きは凄まじさを増していく。そればもう目を開けてられない程だ。そしてその光が強くなるにつれて、この空間の壁にヒビが入っていく。そして更に押し込んだ時、俺には何やら肉を刺したような感触が剣から手に伝わってきた。そして――
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!?」
――と叫ぶ声がこの空間全部に響いた。そして同時に俺たちは元の部屋に戻っていた。でも状況は違う。真っ先に視界に入るのは、きっとペニーニャイアンだろう。彼女の周りにはピローネやメイドや執事たちが集まってオロオロとしてる。そして当のペニーニャイアンその人は、肩を抑えて床に座り込んでる。まあ座ったというよりも、倒れたんだろうけど……ペニーニャイアンの押さえてる肩からは血が出てるんだろう……その白い服は真っ赤に染まってる。そして脂汗で髪が濡れて、顔にへばりついてる。さっきまでの余裕がある表情は既にない。だいぶ苦しそうだ。
(多分、いままで痛み……なんて物を知らなかったんだろうしな)
そんな推測が簡単に出来る。なにせ巫女は花よ蝶よと大切に育てられてるのが、ひと目で分かる。いいもの食って、いいところで育ってる。怪我なんかしたこともなさそうだ。そんなペニーニャイアンが肩を聖剣でぐっさりと行かれたんだ。それはそれは、耐え難い苦痛だろう。まあそれでも耐えてるのは、神託の巫女としての矜持なのかもしれない。
俺たちのような下等な存在に意地でも情けない姿は見せないとかいうそんな意地なのかも。
「どう……して……」
どうやらペニーニャイアンは俺たちに気づいたようだ。他の奴らはペニーニャイアンがいきなり血を流して倒れたから多分そっちに意識が行ってて、気づいてなかった。でもそのペニーニャイアンの言葉でペニーニャイアンの側に居た奴らもこっちを向いた。
「どうしてローワイヤちゃんたちがいるの!?」
ピローネがそんな事を叫んで立ち上がる。ペニーニャイアンや、ピローネ側にとってはあの場所から俺たちが戻ってくる……なんて事はきっと予想外だったんだろう。
「その剣……まさか、私の肩を貫いたのは」
どうやらペニーニャイアンは気づいたようだ。俺の持ってる剣の先端についた血が誰のものか……だから俺はこれみよがしに言ってあげる。
「すみませんでした。思ったよりもあの壁もろくて、術者まで届いてしまったようです」
「――っ!?」
ペニーニャイアンはもの凄い汗をかきつつ俺を睨む。どうやら俺の嫌味は上流階級にも通じるようだ。