「ああ!? あああああああああああああああああ!!」
ピローネの叫びが部屋に木霊した。ピローネは自分の傷に衝撃を受けて思わず膝をついてこちらをにらむ。
「なんでなんでなんで!!」
「これが実力差だ。わかっただろう?」
「そんなわけない! そんなわけない! そんなわけない!! 私は負けないんだ!!」
聖剣の力でピローネの力は拡散されて、傷の治りが遅くなってるはずだけど……どうやら力を集中させて、完治を速めたみたいだ。どんどんと自分の力の使い方を学んでいくな。大元の力の総量に差があるとはいえ、俺の力は今は補充できない。
ピローネの力がどういうものなのか……はわかないが、多分時間を置いたら回復できる代物じゃないか? 生物は普通は自分の力を回復することが出来るものだ。
それに俺もここですべてを出し切るわけにはいかない。リミッターはある。聖剣も抜いてしまってるし、そこまで悠長にやってるわけにはいかない。負ける気はしないが、あまりにもエネルギーを減らされると困る。
ここはしょうがない。ピローネじゃなくペニーニャイアンへと言葉をかける奴を変えるか。
「もう諦めてください。貴女はわかったのではないですか? ピローネでは勝てないと」
「そ……そんなわけが……」
必死に否定しようとしてるが、ペニーニャイアンの声は震えてる。実際信じられないんだろう。今のピローネはこの世界で最強と言っても多分間違いないはずだからだ。
そんなピローネが及ばない相手……そんなのはペニーニャイアンの想定にはない。
「ペーニャ私は負けないよ! 大丈夫! 私は! 私は負けない!!」
さらに鋭く突っ込んでくる。確かに早い。でもさっきまでと違って直情的だ。感情に支配されてしまってる。だから動きがとても単調になってる。
これならこっちは最小限の動きと力でなでるように……
「あがああああああああああああああ!!」
今度はピローネの羽がもがれた。そこからは緑色の血が流れてる。けどそれもすぐに回復させてさらに触手をいくつも伸ばしてくる。それらを冷静に対処する。
「待ちなさいピローネ! それではダメよ!!」
「あががががが!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ねええええええええええ!!」
俺は冷静にすべての触手とピローネの直接攻撃をさばいていく。感情的になったピローネは俺しか狙ってない。というか見えてない。これなら逆にやりやすい。やはり子供だな。
戦場では冷静さが大切だ。それを失ったら、勝率なんてなくなる。
ピローネは明らかに無茶をしてる。奴の体にものすごいエネルギーが内包されてその体も特別な物になってるとしても、それでも限界というものはある。
ピローネは俺の聖剣の攻撃を受けては回復して迫ってきてるが、こっちが有効打を何回も入れてるのに対して、まだピローネは一発も有効打をいれられてない。
そして当然、回復するのにだってエネルギーは必要だ。それに聖剣の力の影響でピローネの回復のエネルギー効率は著しく落ちてる。もともとは再生能力が高い体みたいだが、その再生能力を聖剣の力が阻害してる。それでも再生出来てるのは、ピローネがエネルギーを過剰に使ってるからにほかならない。
あれだとあともう少しもすれば……
「あががが……がが……ころ……ごろごろごろす――」
なんだか様子がおかしい。どんどんと言葉が言葉になってないような……もしかしてだが……怒りに理性が飲まれてただの砂獣の本能が出てきてる?
もしかしたらこのままだとピローネという人格が飲み込まれてなくなってしまうかもしれない。