「ごちゃごちゃと言ってる場合じゃない」
そう、発言したのはなんと鬼男だった。普段から無口で、あまり口数が多くない鬼男。そんな彼が口を開いた? 一瞬小頭は誰が言ったのかわかんなかったほどだ。だってまさかここで何かを鬼男が言う……なんて発想がなかったからだ。
大体は小頭とか誰かが振らないと鬼男は口を開かない。そんな寡黙こそが男だ! みたいな信念でもあるのかと思うくらいにはあんまり喋らない奴……それが鬼男だと思ってた小頭。だから男の声がいきなり聞こえたとて、それが鬼男だと思わなくても仕方ないだろう。
黙ってやるべきことをやる……そんなちょっと古い価値観を律儀に貫いてるのが鬼男だとおもってたからだ。なのにここでこんな事をいうとは……
「な……なんじゃと貴様!?」
おじいちゃんはビビってる。だってその体は小刻みに震えてたからだ。それを小頭は見破ってた。それにきっとおばあちゃんも。でもおじいちゃんは引くわけにはいかないのだ。だって後ろには最愛の人に、孫娘までいる。ここで引いたら男じゃないくらいは思ってるだろう。
いくら相手が自分よりも大きく、筋肉モリモリマッチョマンで、更にはなんか頭から角を生やしてるとしても、それでもおじいちゃんには逃げるなんて選択肢はなかった。寧ろここで命尽き果ててでも……とそれくらいは思ってそうである。
「俺は何もする気はない。ただ自分の居場所に戻りたいだけだ。そしてそれによってお前の孫も助かる。だから、貴様は何もするな。孫が帰ってこれなくなるぞ」
「なん……じゃと?」
饒舌に鬼男はそれだけいった。それからは腕を組んで目を閉じてる。これ以上何かをいう気はない……というそういう意思表示だろう。実際鬼男にしてはなかなかの長文だった。頑張ったんだろうと小頭は思う。
「あなた……」
「ぬぬぬぬ……お前たちも何か知っとるのか?」
「はい、その人の言ってることは本当です。足軽を取り戻すためには彼の協力も必要なのです」
「何なんじゃそれは……」
そういっておじいちゃんは強く手を握る。
「足軽は……儂の孫はどこにいったんじゃ?」
「それは……遠い世界です。こことうは違う別の世界に今足軽はいます」
「は?」
まあそうなるよね……って反応をおじいちゃんはみせた。小頭だってこれまでの事、そして目の前の鬼男がいなかったら信じられないだろう。
「ごめんなさい!!」
そしておばあちゃんは深々と謝った。