「何をしましたか?」
私は一瞬視界が暗転したその理由を目の前の魔王に問いかける。けどそれに律儀に答えることはしてくれる気は無いらしい。まあ当たり前ですね。でも何かされたのは間違いない。逆にハッキングされたかのような……
(あの子との接続が切れてる……)
私の視界に割り込んで覗いてたあの子。バレてないとでも思ってたのかもしれないが、ハッキリ言って、バレバレだった。なにせお粗末。色々と頑張ってG-01の機能を使おうとしてるのはわかる。けど私から観たらお粗末でしか無い。
でも今はその接続が切れてる。となると……今がチャンスだろう。
「何も喋らないのならそれでいいです。これで終わりですから」
目の前の魔王はひっくり返った甲殻類の様に無様だ。ひっくり返っては無いが、そういう状態でもがいてる……と言うことが似てるって意味ね。なにせ神経系がバラバラになって脳の信号が何処に行ってるかもうわかんないはずだ。
そのせいで立ち上がることすら出来なくて、変な動きを砂の上でしてる。これは一朝一夕で克服できる物じゃ無い。つまりはどうしようもないって事だ。私の勝ちは決まったような物。
「貴方を壊すのはあの子が嫌がるから気が進みません。得た物を返しなさい。それはあの子にこそ残された物。そして、宇宙にとって、全ての世界にとってそれが一番良いのです」
私は魔王に向かって手首を回転させながらそう言う。優しくいってますが、この腕が示すとおりに、これは提案では無い。脅迫だ。状況を理解してるのなら、すぐにでも命乞いのために要求した物を差し出してくる――筈ですが、どうやら魔王はバカのようだ。
「くはははは! そんな何が良いかなんて、誰かの尺度の問題だ。我は欲しいものを自分の物にするだけだ。それが魔王という奴だろう?」
「魔王の定義など知りませんよ。ですが、要求は呑まないと言うことですね」
「使えないのなら、使えるようにするまでだ。どれもこれも面白そうな物ばかりだったからな。そうだな、そのなんとかシステムをあいつから奪うのも良いかもしれないな」
「危険分子ですね。敵対生命と振り分けを行います。あの子は貴方を仲間と思ってましたが、これまでです。私が貴方を排除しましょう」
私はためらいなく、腕を振り下ろす。今の魔王にこれを防ぐ手段は無い。確実に頭を潰して、そして動力源であるコアシステムを破壊する。それで終わりです。けどどうやらそこまで簡単ではないようだ。
「意図的な暴走……ですか」
なんと魔王は自信の強大になった力を解放したらしい。それによって私の体が吹き飛ばされる。でもこれはこれでいい。あのまま力が暴走したら魔王の肉体は耐えられない。肉体が無くなれば、魂は霧散して無へと返るでしょう。
私に殺されないための手段としては悪くなかったでしょうが、その行為は後戻りは出来ない。この世界の数キロ四方を巻き込んで消失するでしょうが、仕方ないでしょう。私は急いでこの範囲の外に出ることにしましょう。
「あの子には自爆した……とだけ伝えておきますよ」
「そうはいかないな!!」
周囲で魔王の暴走した力がバチバチとぶつかり合って小規模な爆発反応が起きてる中、そんな声が聞えた。まさか……この状態で私をどうにかしようとでも? 無理な事です……実際魔王はまだ砂のうえでもぞもぞしてるだけ。だからなにも出来るはずはない。そもそもこれだけの力を暴走させてるんです、他に構ってる余裕なんて無いはず。
でもイヤな予感がする。AIの私がデータではなく直感を恐れるなんて……おかしな事です。けど、そう言う物がある気は確かに認識もしてる。だから従うことにしましょう。なにせ危険を冒す必要なんて無いのですから。