頭に響く声に驚いて辺りを見回す野々野足軽。けど当然だけど、この部屋には野々野足軽以外には誰もいない。
『ここだよここ!』
「もしかして……」
野々野足軽は手のひらにある水をみる。するとその水がプルプルと震えてる。なんか自己主張してるみたいだな……と野々野足軽は思った。
「これなのか?」
『これとは失礼な! 僕を生んだのは貴方様じゃないか!』
「生んだ? 変な事を言うなよ。自分は男だぞ。産めるわけないだろ!」
『だってそうなんだもん』
頭に直接響く声にあわせて、水がプルプル激しく動いてる。どうやら本当にこの水が喋ってきてるらしい。にわかには信じられないが、でも信じられないことはここ最近ずっと起きてるから、野々野足軽は受け入れることにした。
「それで、お前は何なんだ? 水なのか?」
『わかんない! けど、僕は僕なんだよ! 名前を付けて!』
「名前か……」
なんかよくわからないが、名前を求められてるし、自分は親だという思いから野々野足軽は名前を考えることにした。水だし「ウォーター」でいいか? とか一瞬思ったが、流石に捻りなさすぎだろ――と自分で没にした。なら――
「アクアとか? 水みたいな意味だったし」
「じゃあアクアだね! アクアはアクアになったよ!」
「うん……いみわからん。で、なんなんだお前?」
「わかんない!」
やっぱり当事者にも自分が何者なのかはわからないらしい。野々野足軽は色々と考えた結果一つの結論にたっする。
「俺はもしかしたら、神だったのかもしれない」
そんな結論だ。
『何言ってるの? 面白いねそれ!』
「お前、神とかわかんの?」
『ご主人様の知識があるからわかるよ!』
「なるほど……知識は共有されてるのか……」
もしもただ生まれいでたのなら、アクアの中には何も入ってなくて、赤ちゃんみたいな筈だ。けど違う。アクアは元から野々野足軽の知識を持ってるらしい。
「やっぱり神じゃん。なにせ命を生み出したみたいなものだぞ。超能力スゲー」
命を生み出すとか超能力の次元を飛び越えてる感じだが、野々野足軽は「すげーすげー」と連呼してる。
「で、アクアは何ができるんだ?」
『わかんない!』
元気いっぱいにそう答えるアクアに野々野足軽も困惑だ。
(これも自分で見つけていかないといけないって事か?)
何も誰も教えてくれることはない。だから一歩ずつ自分で歩いて行かないといけない。けど――
「上等だ!」
――そう野々野足軽は言ってやった。なにせできることが一つずつわかり増えていく事は素直に楽しい。それに水のこんな変な生物? が出来たのなら、他にもできるかもしれない。そんな思いがあった。
「結局、できたのはお前だけか……」
そんな野々野足軽の言葉に、アクアはプルルンと体を揺らしてこたえる。
『ドンマイ!』
とりあえずいったん検証をやめる。ずっと部屋の中にいるが、野々野足軽は力を使うたびに疲労が蓄積してしまう。確かに最初よりはずっと力を持続できるようになった。けど野々野足軽は毎日疲労困憊になるまで力を使うようにしてるんだ。
その方が筋肉と同じように成長する気がしてるからだ。
「はあはあ……」
そんな息を吐きながら一階におりる。
「あんたなんでそんな……ふふ、ほどほどにしなさいよね」
キッチンにいたお袋がなんかムフフな顔をしてそんな事を言ってきた。確かに健全な男子高校生なら、そういうことをしてるものだと思う。自分の部屋でエッチな事をやってるのは普通だろう。
けど野々野足軽は断じて違うといいたかった。でもここで否定したって、意味はないともしってる。だからとりあえずコップだけ取り出して水を注いで飲む。
「まああんたは健全すぎるから、今は色々とやってるようである意味安心ね」
「何がだよ」
現在進行形で人の域を超えつつあるというのに野々野足軽のお母さんはそれが安心だという。まあ親にとっては子供がやんちゃでも嫌だけど、手がかからなすぎてもさみしいものなのかもしれない。
とりあえず飯食ってお風呂も入って訓練もした。そろそろ十時になるし、寝る時間だ。後は一気に力を開放して倒れるように眠って朝を迎えるために野々野足軽は洗面台で歯磨きでもしようかと向かう。洗面台はお風呂と脱衣所の手前の廊下の突き当りある。
野々野足軽は水を出す。するとさっきまで隠れてたアクアがなんか興奮してるようにうねうねしだした。さっきは野々野足軽のお母さんがいたから服の中でおとなしくしてたようだが、周りに誰もいないからかぽっけから出てきて洗面台に落ちた。
「あっ!?」
そう思ったときには遅かった。
『あははははははは!』
そんな声が頭に響きながら、蛇口の水と一緒にアクアは排水管へと吸い込まれていったんだ。
「ああああああああああああ!!」
そんな声が野々野足軽の家に木霊した。