ようやく飼い主を思い出しのか、スコティッシュ・テリアは野乃野足軽を案内するかのように、前を走り出した。てか……
「おい! ちょっ」
スコティッシュ・テリアは興奮してるのか、後ろを見てない。そのせいでどんどんと前にいく。そして人の波の間をスイスイっと歩くから野乃野足軽はついていくのが大変だ。すぐに見失いそうだ。実際このままどっかに行こうか? とか思ったりもする。
なにせあのスコティッシュ・テリアはなかなかに変なやつ……いや変な犬だったから、飼い主もやばいやつだったらどうしようって心配がある。だから追いかけるのをやめようか……とか思う野乃野足軽だが……
(無駄でしょう。あれは鼻がいいですから、すぐに見つけてきますよ)
(だよな)
犬から人間が逃れる事は難しい。いや、力を使えばどうにか出来るかもしれないが、匂いを防ぐってなかなか難易度が高い気がする。そもそもが犬は人間には嗅げない匂いを嗅いでる筈だ。それってつまりは、野乃野足軽が匂いを遮断したと思っても、それって人間の嗅覚でしか判断できない。そうなると犬には筒抜けっ事が有り得そうな……いや勿論、ちゃんと色々と検証してやれば完全に匂いを遮断できると思ってる。けどいまここで即席で出来る事は限られてるんだ。
「わんわん!」
人混みに消えていったと思ってたスコティッシュ・テリアがいつの間にか野乃野足軽の足元に来てた。どうやら野乃野足軽がついてきてないのに気づいて戻ってきたみたいだ。この感じで野乃野足軽は絶対にこの犬が自分を逃す気がない……って事を感じたよ。
だから今度はちゃんと、しっかり、ついていくことにした。
「なんか人の多い方にいくな……」
スコティッシュ・テリアは駅の方に近づいてる感じがする。もしかして電車に乗るき? いやでも……とか思ってると、なんか野乃野足軽は来たこと無い場所にきた。駅は利用したこと有るのは当然だが、こんなところは知らない。玄関? そこらのマンションの玄関にあるようなカードキーをスキャンする場所とか、ボタンを押す台座みたいなのかある。そしてその奥には豪華な扉。それをスコティッシュ・テリアはカシカシと前足で引っ掻いてる。
「この先にボスがいるのか?」
「ワンワン」
そのようだ。つまりは……ここってこの駅に直結してる感じのタワーマンションの入り口ってことだろう。
(さてどうしよう……)
はっきり言って、ここを開けることは野乃野足軽には出来ない。身体強化してこじ開けるって事はできるかもしれないが、そんなことをしたら野乃野足軽は犯罪者だ。そんな事はできるわけない。きっとこの機械を使えばしってる部屋番号とかの家主を呼び出せたりするんだろう。
でもこんな場所に知り合いなんてのはいないのだ。
『おい、部屋の番号とかしってるか?』
『なにそれ!?』
「だよな……」
だと思った。スコティッシュ・テリアがそんなのを知ってるわけない。これでは飼い主に帰すなんできない。そうなるとそのうちきっとここの住人が来るだろうから、その人に事情を話して……となりそうだ。
(あんまり気は進まないけど……)
それしかないか……と野乃野足軽は諦める。とりあえずここで暫く待つことになりそうだなって思ってたら、声を掛けられた。
「野乃野君?」
「……平賀さん」
そこに現れたのはなんとクラスメイトで隣の席の『平賀式部』だった。