「君本当に彼の……彼の事を……いやもちろん野乃野君はすごく素晴らしい男性だと思うんだが――」
なんか山田奏はそんな事を言ってた。平賀式部のことはもちろん譲れないって気持ちがあるんだろう。けど、ここ最近は野乃野足軽にも世話になってた。だからこそ、野乃野足軽も悪く言うことは出来なかったのかもしれない。
こういうところがきっと山田奏が男子とかからも嫌われない理由なんだろう。山田奏は三年生だが、そこでも別に山田奏が嫌われてるって話は聞かない。むしろ女子だけではなく、男子からも人気らしい。
そんな山田奏だからこそ、恋のライバル……というかもう負け確定してるが、それでも激高したり、自分の方が……とか言わないところが、山田奏が男女関係なく人気なところなんだろう。
「そう、野乃野君は素晴らしい」
なんか平賀式部がそんな風に素早く山田奏に返した。それにあっけに取られたのは、山田奏だけじゃなく、野乃野足軽だってそうだ。
「野乃野君は優しいし、声も好き。眠そうな横顔も好き。手の形も好き。体格も好き。匂いも好き」
「そんなに……彼の事……」
平賀式部の言葉は今、この場にいる全ての人が聞いてるだろう。そして、それを受けて、視線を受けるのは野乃野足軽である。小さく「あれが?」とか「どこが?」とか実は野乃野足軽には聞こえてる。
それは実際野乃野足軽は自分自身でも思ってることだろう。そんなに自分自身がいい男なんて思ったことは野乃野足軽にはない。嬉しさと恥ずかしさ……そんな感情が入り混じってどう反応したら良いのか……当人はわかってない。
(ここで動かないと男ではないのでは?)
そんな事をアースが野乃野足軽に言ってくる。ただ赤くなってる野乃野足軽だったが、その言葉を聞いてそうかも……と思った。それに山田奏はまだ平賀式部へと迫りそうではある。
実際いきなりこんな展開だ。野乃野足軽だって頭がついてきてない。そもそもがなんで平賀式部がこんな大胆な事をやったのか……彼女はそんなキャラでは無いはずだった。
こんな大胆な行動……
「平賀さん、俺は!!」
「先輩、すみません。もう、やめてください。もう……」
そこから野乃野足軽は何を言おうとしたのか。「もう、平賀さんは俺の彼女ですから」だろうか? 毅然とそれが言えてたら、それこそ格好良かったのかもしれない。けど野乃野足軽は――
「えっと……その……ですね。ゴニョゴニョ……ですから」
――とか情けない姿を晒してた。