目が覚めた。知らない天井を見つめつつ、彼女は布団から出して手をかざす。そこには見慣れない手がある。小さくて、綺麗で、傷一つない。
「まじかよ」
彼女はそんな風につぶやく。もしかしたら……もしかたら寝て目が覚めたらこの変な夢が終わって現実が帰ってくるだろう……そんな風に彼女は思ってた。
「ふわぁーあ!」
口を目いっぱい開けての欠伸。いつもはだるい朝……いや……
「朝日なんて何年ぶりだ?」
窓の近くまでいって、カーテンをめくる。窓も開けて、朝の空気を吸い込む。それがとても新鮮だった。一秒……二秒……三秒……四秒……と長く吸ったり吐いたりできる。
空気がおいしく感じるし、口に淡がたまったりもしない。健康な体……それを彼女は実感してる。
「やっぱりこれって……あいつがやったのか?」
そういって空を見つめつつ考える。彼女の直前の記憶は、自身の死。上半身と下半身が分かれて、黒い何かに包まれていくその最中で記憶はない。
そして気づいたらこの状況だった。
「やっぱり神か?」
それをつぶやいた後、彼女は窓からちょっと離れる。そして朝日が差し込んでる部分をたしかめて、畳に膝をつく。そして両手を組み合わせて、目を閉じる。
「神様、感謝……するぜ。何の気まぐれかしらないが……これは楽しめってことだろ?」
彼女は祈る。昨日は何が何だか……だったし、正直夢だと思ってた。けど、一日たって、寝てもこのままなら覚悟も決まったのかもしれない。それに……だ。彼女は以前の自分にどうやら未練なんてないらしい。
「よし。これからどうすっか……」
感謝はおわったらしい。これからのことに彼女は思いをはせる。すると彼女は畳の部分から降りて、スリッパをはく。そして廊下に出て、トイレを目指す。
「うん、よし、やっぱり」
自身の顔をトイレに設置してある鏡を見て、確かめる。そしてにやにやとしてる。
「まあ、なんか元の顔の面影? があるが、これはやりがいがある顔だなぁ」
さらにつぶやいて、まるで男性が髭をさするように顎部分を触る動作をしてる。どうやら彼女の総評的には合格点らしい。そんなに美少女というわけではない。どっちかというと、素朴な感じの顔だ。ちょっと目つきが悪いかもしれない。
でもそれでも、いやそんな顔だからこそ彼女は「やりがいがある」といったんだろう。
「けどこのままならまた施設いきか。あんなクソなところじゃあ、何も買えたりしねえな」
どうやらすでに金の心配をしてるらしい。現実的である。それに訳アリの子供たちを預かるような施設を知ってるような口ぶり……ふともう一度鏡を見て、自分の胸を触りだした。
「売れる……か? いや、さすがに貧相すぎるか」
その発言はまるで自分自身を売るかのような……そんな発言だった。