「どういう……いや、本当に痛かったんだ。さっきまでズキズキと傷んでたし、傷の感覚だって、血が流れた感覚だってあった!」
「落ち着いてくだされチャブ氏」
洗い流した頬から傷がなくなってたことで、逆になぜかチャブ氏は不安になってしまったらしい。傷がなかったのなら、怪我してなくてよかったね――とは状況的にはならないようだ。
なにせあの傷は、今までの出来事が夢ではなかった……幻覚ではなかった……化かされたわけではなかった……という証明だったからだ。確実な証拠。体験した証だったわけだ。けど……それさえも消えてしまった。
そうなると、皆が今までの事はなんだったんだ……って思ってしまう。
「誰もチャブ氏が嘘をついてた――なんて思っておらんよ。心配する必要はない」
「だけど……この傷がなかったら……もう証明するものが……」
「確かめて見る……しか無いのかもしれぬ」
チャブ氏の言葉に猩々坊主がそんなことをいう。その言葉にアンゴラ氏やミカン氏も「「え?」」と嫌な顔をする。だって……それってつまりは……
「あの場に?」
「気にならないのか?」
「それはですね……勿論ですけど……気になります」
「気になるけど……でも……なぁ」
どうやら猩々坊主以外は、勿論だけどこの夜の出来事を確かめたいという興味も意欲もあるようだ。でも……それとこれとは話が別というか、いまさっきの鮮烈な体験。それは三人の中ではこれまで体験したことがないような……強烈で新鮮で、そして斬新で根源からくる死の体験だった。
まあつまりは、これだけ大人が集まってるのに『怖い』ということだった。
「ふむ、とりあえず何か起きるのを望むなら、今夜再びと思っていたが、翌朝にしようか?」
「そ、それが良いと思いますです」
「ああ、賛成だ」
「流石に疲れたしな……」
そういって皆の意見はまとまった。とりあえず今夜はもうあの現場に行くことはやめたみたいだ。四人は、スマホで近くのビジネスホテルの予約をとって、そこへと足を進めた。
四人はホテルにつくなり、ベッドに飛び込んだ。ビジネスホテルだから、2・2に分かれて部屋を取った。そして四人は倒れ込むようにしてベッドに落ちると、そのまま睡魔に身を任せて寝てしまう。
そして翌日、四人は再びあの廃ビルへとやってきてた。そこには倒壊せずに、そのビルはたしかにあった。
「こんなことって……」
「やっぱり私達は化かされてた?」
「いや、そうとも限らんぞ」
チャブ氏とアンゴラ氏がビルを見上げてそう言ってると、猩々坊主が立ち入り禁止のテープを無視して中へと足を踏み入れていた。そしてそこで何かを見つけたようだ。